ヤンキー

「んじゃゴラァやるんか」「やれるもんならやってみろや」
「マジで調子こいとったら殺すぞ」「はあ?お前を殺してやんよ」
うわぁ、めっちゃ蹴ってる。あっ殴った。痛そー。
あっやり返した。ギェピー。

中1の夏、田舎の小さな山村で僕は(日本ヤンキー烈伝)というタイトルの番組を観ていて、これに出ているかっこいい人達はきっとヤンキーって言うんやわと思いながら、生まれて初めてヤンキーというものを見た。テレビの中だけど。
僕は夢中でテレビを見続け、ヤンキー達の一挙手一投足、一言一句を逃さないように必死だった。もしかしたら人生で1番集中したかもしれない。

そうして番組を観終わった後、この長閑な村に初めてのヤンキーが誕生していた。
村唯一のヤンキーは、家の柱に顔を描いた紙を貼り、睨んで、絡んで、殴った。「痛たいよおおおおん」

ミーンミーンミーン♪

さっきのテレビを思い出していた。
そう言えば髪の毛の色が違う人が沢山居ったな。
外国人かな。英語ぺろぺろなんやろうな。
めっちゃかっこええやん。this is a yusuke.
そしてみんな制服ってやつを着ていた。
制服かっこいいから、僕も欲しくてどうしようも無いんだけど、制服の作り方がわかんないや。母ちゃんに頼んでみよかな、とも思ったけどヤンキー知らんやろうし、ヤンキー知らんかったら制服も分からんやろうから無理ゲーやな。

つくつくほーしつくつくほーしつくつくピーやピーや♪

時計を見るともうすぐ4時で、おじいちゃんが畑から帰ってくる時間だった。やべっ、急がな。
僕は柱に貼った敵の顔を剥がしグチャグチャにしてゴミ箱に捨てた。
「あんま調子こくなや」
という捨て台詞と共に。

「おおう祐介ただいまあ」
「あっじいちゃんおかえり、おつかれ様」
「ちゃんと勉強しとったか?夏休みだから言うて遊んでばっかりしてたら畑手伝わすぞ」そう言って笑いながらじいちゃんは農協さんのタオルで顔をゴシゴシ拭いてた。
「ねえ、じいちゃんはヤンキーって知ってる?」
「ヤンキー?新しい果物かなんかか?」
「違うよー。なんかさっきテレビに出てた人達の事なんやけど、流石のじいちゃんも知らんかったか」
「そのヤンキーいうのはなんや?」
「どちゃくそかっこええ人達の事やと思う」
「そうか。じゃあ祐介もヤンキーならんとなあ」
「うん。ヤンキー目指して頑張るわ」
「じゃあヤンキーなれる様に勉強するんやで」
「うんー」

ケロケロケロケロケロケロ♪

5時になるとお父さんもお母さんも帰ってきて稲川家が全員揃う。それから晩ごはんを作り始めるので、僕はその間にお風呂に入る。「なんじゃゴラァ」水面チョップ!バシャア!
くうううかっこええわ。2学期始まるまで待ってられへんな。
いやそれまでにちょっとでもヤンキー仕上げたいな。
晩ごはんの時にお父さんにも聞いてみよっ。

おっ今日の晩ごはんはチキン南蛮やん。めっちゃ美味しいやつやん。
「祐介フルチンで晩ごはん見つめるなや、はよ拭けよー」
「だってチキン南蛮やで、お父さんにとってのチキン南蛮は普通なんかも知れんけど、僕にとってはイカついねん」
「それなら余計にはよ拭いて服着いよ」
「確かに」

りんりんりんりんりいんりん♪

なんでチキン南蛮ってこんなに美味しいんやろ。
こんないかつい料理考えるなんて絶対ヤンキーやわ。

「なあ、お父さんヤンキーって知ってる?」
「なんや急に。知ってるけど」
「なんや剛、お前ヤンキー知ってんのか」
「なんでジジイまで食い気味やねん」
「なあ、僕な立派なヤンキーなろおもてんねん」
「お前の学校小中合わせて全部で何人やっけ?」
「えっ10人やけど。なんで?」
「そこでヤンキーて、やりがい無いやろ」
「剛、ヤンキーってなんかちゃんと説明せえ」
「ヤンキーいうのは校則守らんかったり先生に逆らったり、いつもケンカばっかりする悪い奴等の事や」

「剛、それ昔のお前やんか」

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