【禍話リライト】 小銭入れ

 怪談を集めていると、お話が尻切れトンボで終わってしまうことがたまにあるんです。

 それでどうなったの、と知りたいのにそこから先は体験者も知らない、みたいな。現実のことですからね。何事もきれいに丸く収まるもんじゃない。それでついつい、深堀りしようと質問をおっ被せたりするわけですが……

 逆に、時々わたしの方から「これ以上はもう大丈夫です」と引き下がることもあるんです。これもそんな話で。小銭入れはよくないな、って話なんですけどね。

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 とある飲み会の席のこと。「お前、怪談集めてるんだろ」と水を向けられましてね。何か話してよ、というわけです。

 それで、おばけって痕跡を残したがりますよね、という話をしたんです。お前のすぐそばまでやってきたぞ、とでも言わんばかりに髪の毛とか爪の跡とか見せつけるように置き残していく。そんな話を。

 話し終えて一同ふーん、みたいな空気になった時です。

「あるんだよな、そういうことって」

 とある男性の方が急にポツリとそう仰ったので、聞いてみたんです。

「何かそういう体験でもあるんですか?」

「うん。俺ねえ。小銭入れを持っているんだ」

「はあ」

 急に何を言い出すんだろうと思ってね。対面に座ってちびりちびりお酒を口に運んでいる彼が続きを語るのを待っていました。

「……たまに乳歯が入ってくるわけよ。それに」

「えーと……お子さんのものですか?」

「や、俺独り身なんだわ。なのに、小さな子供から抜けたような歯が時々入っているんだよねえ」

 ちょっと詳しく聞かせてくださいと、おもわず身を乗り出していました。

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 一番最初に気がついたのは……いや、いつ頃だか覚えてないな。ああ、うん。俺も最初、たちの悪いイタズラかな、と思ったよ。結構悪どいことする奴が知り合いに多いからさ。まあ俺もそういうことする側の人間だから他人ひとのこと悪しざまに言えないんだけどねえ……

 それはともかく、イタズラとかじゃ絶対ないんだよ。

 例えばさ、朝一で小銭入れの中身に異常がないか確認して、散歩に行くとするじゃん? 小銭入れとスマホだけ持って、ブラブラと。途中の自販機でコーヒーでも買って飲むか、みたいなさ。

 それでふとした瞬間に「あれ、小銭入れが微妙に膨らんでいるぞ?」って気がつくわけ。実際に小銭入れの中を確認してみると、そこに子供の乳歯があるんだわ。

 血とか乾ききってる小さな歯が、いつの間にか紛れこんでいるんだ。

 歯? 毎回捨ててるよ。出先だったらそこら辺に。持って帰ったりするわけないじゃん。

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 なんだか変な話聞いちゃったなと。それでも気になることがあったんで、わたし、つい余計なこと言っちゃったんです。お酒に酔った勢いに任せて。

 ほら、何もないのにそんなこと起こるわけないじゃないですか。何か原因があるだろうと。ちょっと冗談めかして言ってみたんです。

「きっと何か理由があるから、子供の乳歯が小銭入れに来ちゃうんですよ。思い当たる節、ありませんか?」

 すると不意に黙り込んでしまって。居心地の悪い沈黙が流れた後、まるで独り言のように、彼、ぼそっと呟いたんです。

「ないわけじゃない」

 咄嗟に聞こえなかったフリをして、それ以上は踏み入りませんでした。




この記事は禍話で語られた怪談を元に作成されました。
文章化に際して元の怪談に脚色をしております。何卒ご容赦ください。

出典: まがらじ 第一回
URL: https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/314720903
収録: 2016/10/14
時間: 00:04:35 - 00:07:40

記事タイトルは 禍話 簡易まとめWiki ( https://wikiwiki.jp/magabanasi/ ) より拝借しました。