【禍話リライト】 こっくりさんの解説
以前、こっくりさんが禁止されている学校の怪談をしたじゃないですか。忘れ物を取りに学校へ戻った女子高校生が怖い思いをするやつ。
(『踊り場こっくりさん』 13:50頃から)
あの怪談って結局、なぜあの学校でこっくりさんが禁止になったのか、という核心の部分が不明のままだったでしょう。
話を聞いた時そこがどうしても気になりまして。体験を語ってくれた女性に聞いてみたんです。その方、真面目で律儀な方なんですよね。「わかりませんけど、わたしの方で改めて調べてみます」なんて言ってくださって。「もし何か新しいことがわかったら改めてお伝えします」と。
とはいえ、その学校でこっくりさんが禁止になったのは相当昔ですから。半分くらいは諦めていたんです。ところが本当に話を仕入れてくださって。感謝しかないですよ。
それを今から語るんですけれど。ただこれ、こっくりさん禁止の由来とは直接繋がってないんです。こっくりさんが流行した時期の話ではあるので、ニアミスはしていると思うんですけどね。
あの学校でこっくりさんが禁止になる、ちょっと前の話になります。
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こっくりさんブームの真っ只中、Cさんはその学校に教育実習生として赴いたのだそうです。
話を仕入れてきた女性曰く、Cさんは気さくな女性の方。生徒たちの中へ気取らずに入っていけるようなタイプ。授業が終わっても職員室とか実習生用の控室とかには戻らずに、できるだけ教室に残って生徒たちと交流する、そんな人柄だったそうですよ。
教師になるべくしてなるような人と言ってもいい。生徒たちからもきっと人気のあったことでしょう。まあ、それはいいとして。
その学校では教員用と生徒用のトイレは別々にあったそうです。教員用のトイレは職員室そばのトイレだったそうなんですね。教師見習いで実習生のCさんもそこを使うよう一応言われていたんです。
でもある時たまたま、Cさんは誤って生徒用のトイレに入っちゃったそうなんです。放課後、教室から出て近くのトイレにうっかり入っちゃった。
放課後となれば生徒も誰もいないトイレは静かなものですから。教員用のトイレと違和感なかったんでしょうね。
あっ、ここ生徒用のトイレだ。
そう気がついた時には個室に入っちゃってて。これはもう、入っちゃった以上は仕方ないかと。
それで、用を済ませて個室から出ようとした時です。
四、五人くらいの女子生徒たちが、わっとトイレに入ってきたそうです。会話に花が咲いてすごい盛り上がっていて。
「それでさー!」「そうそう!」
みたいなね。それでCさんは、教育実習生とはいえ大人な自分が今出ると彼女たちの盛り上がりに水を差してしまうと思って。彼女たちに気を遣ってトイレの中に留まったそうです。
彼女たちが去ってから出ればいいや、と。
ところがですね。彼女たちは会話をするためにトイレへ来たようで、ずっと手洗い場の付近にいるんですって。誰も個室に入る気配がない。
箸が転んでもおかしい年頃なんですね。ちょっとしたことで笑いの渦が巻き起こって。Cさんも自分にもこういう時代があったなあと少し懐かしく思ったりなんかして。
それで、彼女たちの話題が当時流行っていたこっくりさんに移っていったそうなんです。どうやら昨日の夕方、こっくりさんをみんなでしたらしい。
「それにしても、昨日のこっくりさんはすごかったよね」
「かなりしっかり受け答えしてくれたもんね!」
普通……普通と言っていいかわからないですけど、こっくりさんって結構支離滅裂な回答になったりするんですね。それこそ誰かがいい加減に動かしたりして。それが昨日のこっくりさんは満額回答だったと。ビシバシ答えてくれたと。大したものです。
彼女たちは昨日のこっくりさんを振り返って大盛り上がり。
ところが。そんな彼女たちの中に一人、「わたくし、霊感少女でござい」みたいな子がいたそうで。こっくりさんの解説みたいなものを会話の合間合間に挟んでくるんですって。
「クラスの中にカップルはいますかって聞いた時も、すごかったよね」
「名前、ちゃんと合っていたもんね」
「あの二人観察してたら、やっぱり付き合ってるとしか思えなかった!」
なんてきゃいきゃい盛り上がってるそばから。
「そうそう。でもあれは、その場にいた浮遊霊が割り込んできて適当な嘘を言っただけなのよね。だから、残念だけど正確には本当じゃないの」
と、注釈を加えてくる感じ。でも他の子たちもその子に慣れっこなのか。
「うんうん、でさ」
と軽く流すと次の話題に移って。
「長く休んでいる先生のこと。あれ、誰か他の先生に確認した?」
「ううん。でも、なんか、『胃に影』とか『三分の二切り取る』とか、結構危うい感じみたいだよね」
「そうそうそうそう。あれはね? その先生が悪いのよね。あの先生、実家のお墓の世話をあんまりしてないのよ。だからね、その障りが家の長男であるあの先生に来ているのよねえ」
えらい解説するなあ、と。Cさんは感心したというか呆れたというか。こっくりさんの専門家か? みたいなね。
しばらく彼女たちの話題を聞くとはなしに聞いていたそうです。そうしていると、解説のパターンに気がついて。
いい感じの回答には嘘だとか誤魔化しだとか不幸になる前触れだとかで、悪い感じの回答にはただ「そうそうそう」って肯定するだけなんです。
つまり、結局全部悪い感じに解釈しているわけですよ。でも他の子からはそんな解説役の子を注意する素振りもない。まあ、その子はそのグループの中でそういう役回りなんだろうとCさんは一人で納得して。
「今日も、やる?」
なんてね。彼女たち気軽に言ってる。こっくりさんなんて気軽にやるもんじゃないですよ。
「えーでも、昨日なかなか帰ってくれなかったからなあ」
「帰ってくださいってお願いしてもずっと『いいえ』になっていたよね」
「うん、あれはね。たちの悪いやつが来ちゃってたんだよね。もうなんか、会話を糸口に誰かに取り憑こうとしていたからね。だからずっと『いいえ』だったんだよ」
「あれ怖かったあ。結局『はい』になったけど、正直、わたしたちが動かして強引に持っていった感じだったよね」
「大丈夫かな」
「ううん、あれはねえ。それはねえ。取り返しのつかないことをしちゃった気がするよねえ。だってあいつ、帰っていないわけだから」
解説役の子、相変わらず嫌なことを言っているわけですよ。ずっと根暗なこと言われて、横にいる子たちも「いい加減にしなよ」とか何か言い返す気にならないものかしら、などとCさんが思っていると、
「そうだね。今日はやめておこうか」
とか言って、彼女たちはトイレからスタスタと出て行った。
出て行ったんですよ。
でも、こっくりさんの解説をしていた子は残っているんです。ずっと一人で語り続けている。
「帰ってないからねえ。あの霊は。うん。そうなんだよね。誰かに取り憑くまでは絶対に帰らないぞ、って意固地になってるから。取り返しのつかないことをあの子たちはしちゃったんだよね」
え? え? と、Cさんはその場に硬直して。
今、トイレにいるのわたしだけだよね? この子、完全にわたしに向かって話しかけてない?
するとその子、身動きできずに固まっているCさんの個室に向かってきたんですって。どうやら裸足みたいで、トイレのタイルの上をペタペタと足音立てて。
まるCさんに語りかけるように近づいてくる。
「それなのにね。あの子たち、十円玉とかほっぽっちゃってね。きっと自分には災いが降りかからないと思っているの。大きな大きな、大間違いなんだけどねえ」
ペタペタと近づいてきていた足音がスッと消え、Cさんのいる個室の前で立ち止まる気配がして。
「だからね、あの子たちは二十歳まで生きられないと思うの」
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この話はここでおしまいなんです。語り終えた彼女に向かって思わず「えー!?」と言ってしまいましたよ。
「ちょ、ちょいちょい。ここで終わっちゃ駄目でしょ。こっくりさんをやっていた子たちはどうなったの」
ところが、彼女もこの話の出処であるCさんからそれ以上聞いていない、教えてもらえなかった、と言うんです。
ただそれからしばらくしないうちにあの学校で何かが起きて、こっくりさんが禁止になったことだけは間違いないみたいなんですよね。
この記事は禍話で語られた怪談を元に作成されました。
文章化に際して元の怪談に脚色をしております。何卒ご容赦ください。
出典: 燈魂百物語 第零夜(2)
URL: https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/337060766
収録: 2017/01/07
時間: 00:00:15 - 00:06:10
出典: ベスト・オブ・禍話②……新作多め
URL: https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/471907378
収録: 2018/06/16
時間: 00:43:35 - 00:53:20