映画を観た記録175 2024年9月12日    増村保造『清作の妻』

Amazon Prime Videoで増村保造『清作の妻』を観る。

日本人農村社会の閉鎖的体質、陰湿さ、村人たちの利己主義者ぶり、権力に弱い人間性、村が権力に睨まれないようにするためアウトサイダー的人物を排除するいやらしさ、狡猾さ…「日本」の本質を抉るように描く大傑作である。

模範軍人・清作は村に帰る、清作は、町で60すぎた男の妾をしていた女と恋に落ちてしまう。清作を田村高廣、妻・お兼を若尾文子が演じる。村はこの恋に落ち、夫婦になった2人を容赦なく村八分にする。とはいえ、清作は模範軍人の手前、清作への敵意は噂話をして盛り上がる。清作に二度目の出征命令が降り、出征を祝う村の宴会たけなわ、清作が町の電車へ向かおうと出ようとしたとき、お兼は清作の両目を五寸釘で指す、そこから事態は変わり、清作は戦争に出征したくないからわざと目を突かせたということになってしまい、模範軍人・清作は一挙に村の恥、売国奴、非国民と罵られ、清作は一時期、実家に住んでいたが、実家にまで石が投げられてしまうことになってしまう。お兼は、目を刺した罪で監獄に懲役2年の刑が下され、放り込まれる。お兼の両足には太い鎖がつながれている。この監獄の描写からみると戦前の日本はナチスドイツ以下の最悪な国家だとわかる。

恐るべき映画である。

若尾文子はまさしく天才女優である。若尾文子演じるお兼が清作両目を刺してから、農地の上を走って逃げ惑うのだが、その走り方、うろつき方、村人に捕まり、足蹴にされる一連の演技は天才としか言いようがない。

ちなみに、お兼の縁者の知的障害の兵助を演じるのが小沢昭一である。小沢昭一も天才である。

清作が目を刺され、女に刺されるとは何事だ!と怒る憲兵曹長を演じるのが成田三樹夫である。憲兵曹長は帰るのに軍人用の長靴というかその類の靴をはくのに、部下に履かせているのである。このシーンだけでも日本は戦争に負ける国であることもわかってしまう。

お兼が妾をしていた相手が殿山泰司が演じている。殿山泰司が演じる隠居のいやらしさは天才的としかいいようがない。

モノクロ画面の構図、音楽と言い、素晴らしいとしか言いようがない。現代音楽家を使わずとも、それ風の音楽が映画を盛り上げている。現代音楽家を使ってそれ風な音楽を使っても、劇伴で消化してしまう吉田喜重より増村保造のほうが確実に才能はある。

増村保造は、若尾文子と田村高廣に演じさせた登場人物で、近代的個人の目覚めを描いたのである。

若尾文子が村に戻り、反抗的な人物で描かれるところからして「近代」を告げている。

脚本は新藤兼人である。新藤兼人は天才的な映画監督でもあり、脚本家でもある。

ちなみに日露戦争の時代のドラマである。

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