ザコと家族とクリスマス

近所のケーキ屋が潰れ、ナゾの民族料理屋になった。

思い入れは特にないが、思い出は少しあるところだったので、少し寂しく思った。

そのどうでもいい思い出を、今日しか引き出せないかもしれないあのときの感情を、忘れないうちに書いておこうと、季節外れにも程があるが今回もnoteを開いた。

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「クリスマス、誰と過ごす?」

ありきたりな質問だが、自分は家族と過ごすものだと思っている。

「カイガイではそれが普通であってウンタラカンタラ」

と、毎年思いながら12月24.25日を過ごしている。 

要するに、彼女もいなければそういうので集まるタイプの友人もいない人付き合いザコなのだ。

しかし、ありがたいことにザコでも親がいる。
なんなら22の大学卒業まで親と住んでいた。

なので、一応寂しい思いをせずにクリスマスを過ごしてきた。



と、言うのは嘘で、心の何処かで寂しくはあった。
これは、大学時代、父親と同居しているときの話。 



時は19歳、冬。大学生。
趣味、一人遊び(そっちの意味でもある)。
バイト経験なし、その他諸々の経験なし。

そんなザコでも、クリスマスは来るし、ワクワクする。
小学生時代、
「サンタさんはいることにしておいた方がサプライズ性のあるプレゼントが貰えるから特である。」
と考えていた自分は、そこそこにあの雰囲気が好きで、この時期は毎年ワクワクテカテカする。

それは、いつになっても変わっていない。
大学生という、大半が口実なしセクースイベントだと思っている時期になっても、そうだった。 

まわりがそう、心の中で考えているであろう時期に、大学生の自分は、「ケーキ食べてえな…」とだけ考えていた。

しかし、俺は、とてもザコだ。

コンビニでさえ緊張するタイプのザコなのだ。

ケーキ屋(おそらく混む)なんて行けるわけない。

とか思いつつも、見てしまうのだ。ケーキ屋を。
入れない(実際はそんなことない)ものに憧れているのだ。

"その日"大学生の自分は、帰りが19時ぐらいだった。
帰り道、気になってしまう。まわりの人間。

人間が人間らしくしているさまを、イヤホンで世間と隔絶した人間もどきがうらめしそうに見ながら帰っていた。

もうすぐ家に着く、あ、そういえば隣にケーキ屋がある。勇気を出して買ってみようか。

思う。
たぶん自分は買わないな、と。

人嫌いは、なんとなく大人に近づけば治ると思っていたが、そんなことはないな~と。

なんだか、辛いな。
悲しくはないし、悔しくもないが、情けなくはあるな。

とか思いつつ、ケーキ屋が見える通りまで来てしまった。

「あ、並んでる…」

ここで、逆に買う気は完全に無くなり、気が楽になった。

「あ、幸せそう…」

仕事帰りの男共が、幸せを届けるために並んでおり、ケーキを買い、そそくさと愛する者の元に帰っていく様は、凄く素敵でこちらまで心が満たされた。

「帰るか…」

なんかもういいな、うん。
あの人たちと自分は違うな。

幸せを見つけた折には自分もそっち側にまわろう。

……家についた。

父親はまだ帰っていない。
自室にこもり、現実に戻る。

クリスマス配信(非モテ♂が非モテ♂に向けてやってるやつ)を見たり、クリスマス動画(ただただ、楽しいやつ)を見て、雰囲気を楽しむ。

自分には、こんなんでいいのだ。
幸せのハードルなんて、低いほうがいいに決まってるんだ。

ガチャ
父親が弁当を買って帰ってきたので、それを食べに居間に向かう。

ケーキとか、買ってきてないかな。

当然、無い。

あったら怖いが。

「「いただきます」」

父と、飯を食う。

会話はある。

「教授がさぁ、アレガアレデコウデ…

「そういえば、隣のケーキ屋って一応混んでるんだね。」

『あそこ、美味いらしいね。買ってこようか?』

自分は思った。
長い人生で父親に面と向かって甘える機会なんてもう今後なくないか??
というか、今後の人生で父親にケーキを買ってもらえるイベントなんて存在するのか?

「食べてみたい。お願いしてもいい?」

言えた。
嘘偽りない。
食べたかった。

『じゃ、行ってくるわ』
ガチャ

しばし1人。
嬉しさの他、情けなさも多少は襲ってきたが、もう遅い。

なぜなら、オレにはケーキがあるから。
そして、家族がいるから。

ガチャ
『買ってきたよ』

よくある、白い箱を開ける。

『これしかなかったんだ』

なんか、紅茶のやつらしい。

待ちに待った、いや、買うに買えなかったケーキ。

堪能しよう。

……

一口食べた。

(なんか、大人の味がするな……)
「結構美味しいね、ありがとう」

正直、味は微妙だった。

キモい感想だが、女と食べて初めて成立するような、妙に品のある紅茶の味だった。 

『2回目ある?』
「無い」
『無いよな』 

自室に戻る。
ケーキってクリスマス食う意味そんなないな。

雰囲気と一緒に食べんと、絶妙に美味くないな。

その日、クリスマスになんとなく焦るザコから、クリスマスになんとも思わなくなるザコに進化した。

…本当に進化か?

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今後、クリスマスにケーキを親と食べることはなかったが、特に食べたいとも思うこともなかった。

小学校時代とも違う。
あのケーキの味。

なんというか、ケーキに、
「オトナになれ」
と言われた気がする。あの味。

ダージリンもアールグレイも何者かわからなかったあの日。

おそらく、あの日、あの味、あの気持ちは、きっと忘れない。

品のあるケーキを、家族と呼べる人と食べて、

心から「美味しいね」と言えるその日まで。



もしくは、何もできずに自分が死ぬ日まで。

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