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クレヨンしんちゃん逆襲のロボとーちゃん[映画評]

「クレヨンしんちゃん」の劇場映画シリーズ第22作目にあたる「クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」の映画評をしてみようと思う。映画評ではがっつりネタバレを含むが、もしもまだ映画を見ていなくてこれから見るつもりなら、これだけを注意して観てほしい。
それは、しんちゃんの母みさえにとってロボとーちゃんはどういう存在なのか である。

あらすじ

映画序盤、しんちゃんの父ひろしは腰を痛める。そんなひろしの下に怪しげな女性が現れ、ひろしはマッサージエステを受けることに。エステを終え野原家に帰宅すると、ひろしは自分の身体がロボットになっていることに気付く。ロボとーちゃんに対しみさえは驚き戸惑うが、一緒に生活する中でロボとーちゃんは野原家と親睦を深める。
そんな中、ロボとーちゃんがロボットになった原因があのエステサロンであることがわかる。それは日本の父親たちの立場の復権をもくろむ「父ゆれ同盟」による陰謀だった。しんちゃんたちが父ゆれ同盟の建物内を調べると、なんとロボとーちゃんとは別に生身の野原ひろしが捕まっている。生身のひろしを救出したしんちゃんたちはロボとーちゃんと共に父ゆれ同盟と立ち向かう。

映画評

友人との感想

私は過去に友人とロボとーちゃんの感想を言い合ったことがある。その時友人はロボとーちゃんの終盤の展開についてあざとっぽく感じたと述べ、そこまで良い印象を持っていなかった。
あざとく感じるには理由がある。ロボとーちゃんは映画ラストで壊れるという泣かせる展開があるが、それはロボとーちゃんを通じて、クレヨンしんちゃんシリーズのメインキャラクターである野原ひろしの死を疑似体験させる作りになっているからだ。はっきり言ってズルいやり方だ。そしてそれは、主人公のしんのすけにとって父である生身のひろしと同様に、ロボとーちゃんもまた大切な存在だからこそ成り立っている。

腕相撲のシーンの台詞の対比

映画終盤の映画のポスターにもなっているとーちゃんとロボとーちゃんの腕相撲のシーンでしんちゃんの台詞を思い出してほしい。
「とーちゃんも負けるな!ロボとーちゃんも負けるな!どっちも負けるな!」とどちらも等しくしんちゃんは応援している。
しんちゃんの応援のあとに続くみさえの台詞も思い出してほしい。
「あなた、勝って!」である。
もうちょっと嚙み砕くと、しんちゃんはどちらも負けない拮抗した状態を願っているが、みさえは勝者と敗者に別れることを望んでいるのである。そして、みさえが呼びかけている"あなた"とはロボとーちゃんではなく生身のひろしの方だ。
しんちゃんとみさえのどちらも応援の台詞であるが、誰を応援しているかの違いが対比することで垣間見える。

しんちゃん派?みさえ派?

腕相撲のシーンではロボとーちゃんより生身のひろしをみさえは応援していたが、みさえそれまでにとった行動・台詞を思い出してほしい。
まず最初に出会ったときは、フライパンを身構えて警戒心を剝き出しにしていた。そして、申し訳ないが外で寝てほしいと言う。その後ちょっとずつ親睦を深めるが、生身のひろしが救出されたときに真っ先に抱きついたのは、ロボとーちゃんではなく生身のひろしの方である。そして、腕相撲のシーンでのあの台詞だ。みさえは一貫してロボとーちゃんより生身のひろしを優先している。
対して、しんちゃんの場合はどうであろうか。しんちゃんはロボとーちゃんもとーちゃんと遜色なく同じようにじゃれつく。そして、腕相撲のシーンの応援から分かるように、生身のひろしと同様にロボとーちゃんもまた等しくしんちゃんにとって本物のとーちゃんなのである。
ロボとーちゃんは野原ひろしの記憶を引き継いだロボットであるが、いくら同じ記憶を持っているからと言って、私たちは生身の人物と同様に扱えるだろうか。少なくとも私には無理だ。生身の家族がそこにいるにも関わらず、同じ記憶を持ったロボットを生身の人物と同等に扱うことはできない。

残酷だから良い

キャッチコピーになっている『ロボ、でも父ちゃん!』は正しくしんちゃんにとってロボとーちゃんは本物の父であることを示している。しかし、残念ながら、みさえにとっては本物の夫には成れていない。
ここまでの映画評を読むと、このロボとーちゃんという作品に残酷であまり良い印象持たないかもしれない。しかし、私はこの残酷さこそがロボとーちゃんという作品の良いところだと思っている。私にはみさえと同じように、ロボとーちゃんを本物の生身の人物と同様に扱うことはできないだろう。だからこそ、ロボとーちゃんもとーちゃん同じように本物だと扱えるしんちゃんが物凄く懐が深い人物に映る。そんなしんちゃんの懐の深さが伺え、しんちゃんというキャラクターをより好きになった一作として、私はロボとーちゃんという作品もまた好きである。

#映画 #クレヨンしんちゃん #ロボとーちゃん


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