見出し画像

M|A|R|R|S ‎「 Pump Up The Volume」④

Pump Up the Volume」はサンプリングで構成されている。Wikiによれば合計26曲。アメリカ盤のみに使用されたパートもあるし、逆にUK盤のみに使用されたパートもある。アメリカ盤はサンプリング・ネタがUK盤と微妙に違うヴァージョンがリリースされた。同じ楽曲同じヴァージョンがリリースされるのが普通だ。なぜこんなことになったのか?それはUKヴァージョンでサンプリングされたStock Aitken & Watermanの「Roadblock (7" version)」がきっかけだった。

M|A|R|R|SMartin Youngは、この曲の"Hey"というヴォーカル・サンプルとサックスのワン・フレーズのみサンプリングした。極めて短いフレーズで今聴いてもはっきり言ってわからない。しかし、Stock Aitken & Watermanサイドは聴き逃さなかった。

画像3

(cosmicamericanblogより)

当時、UKポップ・チャートの常連であり、大物プロデューサー・チームとして名を馳せていたThe Hit Factory!Stock Aitken & Watermanサイドからすると、自分達の楽曲からサンプリングされたメガミックスみたいなアングラDJ音楽風情がチャートを荒らしている状況が我慢ならなかったはずだ。早速、楽曲のリリース差し止めを求めて訴訟を起こした。彼らからすれば、弱肉強食の音楽業界だけに無理もない措置だ。

余談だが、「Pump Up the Volume」がレコーディングされたBlackwing Studioは、Stock Aitken & Waterman Studioの目の前にあったらしい。大胆不敵とはこのことだ。

しかし、彼らはそれだけで飽き足らず英国音楽メディアに公開書簡を書き、自分達の非音楽的素材の無許可使用は「wholesale theft(日本語なんと訳せばいいのか?卸売り盗難?)」に他ならないと断言するなど、大々的にネガティヴ・キャンペーンを行った。当時、彼らがリリースし「Pump Up the Volume」より先にチャート1位になっていたRick Astley「Never Gonna Give You Up」でColonel Abrams 「Trapped」のベース・ラインを拝借していたにも関わらず。

しかし、この訴訟がさらなるプロモーションとなり、ついに「Pump Up the Volume」はUKポップ・チャート1位を獲得する。結果、この訴訟は「Pump Up the Volume」がアメリカなどでリリースする場合、「Roadblock (7" version)」のサンプリング・ネタを削除するということで合意に達した。この訴訟はニュースとなった。James Brownなどの楽曲出版会社はこのニュースを知り「Pump Up the Volume」のアメリカ・リリースを手ぐすね引いて待っていたという。しかし、M|A|R|R|Sサイドは先に手を打った。Stock Aitken & Watermanとの訴訟に件もあったため、UKヴァージョンから以下の楽曲のサンプリング・ネタを抜き新たに再レコーディングした。

James Brown「Super Bad (Part One)」、D.ST and Jalal Mansur Nuriddin, 「Mean Machine」、Love bug Starski and The Harlem World Crew「Positive Life」、Montana Sextet「Who Needs Enemies (With a Friend Like You)」、Fred Wesley and The J.B.'s「Introduction to the J.B.'s」、Whistle「(Nothing Serious) Just Buggin」

この新ヴァージョンをアメリカ盤としてリリースした。(恐らくライセンシーである〈 Island Records/4th & B'way Records〉サイドからの助言もあったはず)。これがUK盤と海外盤のヴァージョンが違う理由だ。

画像2

結果この曲は、英国、カナダ、オランダ、ニュージーランドでチャートを制し他の国でもトップ10に入った。アメリカではUS ビルボード・ホット100で13位、US ビルボード・ホット・ダンス・クラブ・プレイ1位、US ビルボード・ホットR&B /ヒップホップ・シングル&トラック8位を獲得。大ヒットだった。その後、89年のグラミー賞ベスト・ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンスにノミネートされた(受賞は逃したが)。世界規模の大ヒットだった。それは、DJ音楽みたいなものが世界中で認知されたことを意味している。

スクラッチで参加したDJ Dave Dorrellは『1000 UK Number One Hits』のインタビューで語った。

画像1

           (Test Pressingより)

「「Pump Up the Volume」は、(当時UKのアンダーグラウンドなミュージック・シーンで人気だった)レア・グルーヴのレトロなサウンドと、(ヒップホップやハウス・ミュージックなどの)サンプリング・ベースの新しいアメリカン・ダンス・ミュージックがうまくリンクしたんだ」。

その後、M|A|R|R|Sは作品を一切制作しなかった(できなかった?)。メンバーだったAR Kaneは、〈Rough Trade Records〉へレーベル移籍したが94年に解散。Colourboxは、この曲の長引くサンプリング訴訟問題でバンドを解散した(メンバーのSteve Youngはすでに亡くなっている)。 Dave DorrellCJ Mackintoshは、他2人と(初期メンバーにはNellee Hooperも)Nasty Rox Inc.を結成し〈ZTT〉から88年にデヴューするも、同時期に〈ZTT〉が〈Island Records〉から販売契約解除を受けたため、ほとんどプロモーションされることなくシングル2枚、アルバム1枚をリリースし解散した。

UKのメジャーなレコード会社はこの曲のヒットを受けて、同様のサンプリングを使用したメガミックス・ルーツのいわゆるブレイクビーツ・アーティストと次々にサインした。Nasty Rox Inc、Cold CutBomb The BassS'Expressなどがデビューし、いづれもチャート・インする大ヒットを記録した。アメリカでは、本格的にサンプリング・ヒップホップやハウス・ミュージックといったDJによるダンス・ミュージックがポップ・ミュージックのメインストリームとなっていった。

[参考資料]https://www.soundonsound.com/ http://pages.infinit.net/saum/4ad/history_02.html
https://www.wikiwand.com/en/Pump_Up_the_Volume_(song)
https://www.songfacts.com/facts/m-a-r-r-s/pump-up-the-volume
https://www.wikiwand.com/en/A.R._Kane
https://www.wikiwand.com/en/Colourbox
https://www.wikiwand.com/en/MARRS


ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?