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D.J.Africa Bambaataa / Death Mix

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83年、ブロンクスのジェームズ・モンロー高校(94年に閉鎖)で行われたパーティーの模様をライヴ録音したマスター(おそらくカセット・テープ)を使用し制作されたミックス・レコード。70年代中期からディスコ発信で、DJのミックスをライヴ録音したオープンリールやカセット・テープが街角で売買されていたが、それをレコードとしてリリースしたものとしては初なのではないか(?)。リリースはおなじみ〈Paul Winley Records〉。のちにバムバーターが知らぬ間にリリースされたと苦言を呈した。

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しかし、このミックス・レコードがリリースされたおかげで、世界中のラップ〜ヒップホップ好きが、黎明期のブロック・パーティーにおけるMCとヒップホップDJのありかたを学ぶことができた。2枚使いって?ブレイクって?ラップとは?MCって?そんな問いに対する答えが全部詰まっている。音質が悪いのは当たり前、これがライヴ・ミックスだ。

もう少し詳しくレビューを書こうと思い調べていたら〈VICE〉に掲載されたコラムHISTORY OF DJ : HIP HOP ③に記されていた磯部 涼氏の文章を発見した。そこから一部抜粋で掲載させていただいた(とても素晴らしいコラムなのでぜひ全文を読んでいただきたい)。

以下、抜粋 ー 彼は他の誰よりも〝その後、ヒップホップと呼ばれるようになるムーヴメント〟の多文化主義、あるいは、折衷主義に可能性を見出したのである。バンバータのブロック・パーティには様々なギャングや、プエルトリカンも足を運んだ。コケージャンとの融和もダウンタウンに進出した際に達成される。

また、そのような考え方は、DJプレイにも表れており、彼はありとあらゆるジャンルのレコードをかけることから〝マスター・オブ・レコーズ〟と呼ばれるようになる。例えば、80年代初頭にブロンクスのジェームズ・モンロー高校で行われたバンバータのDJを収めたブートレッグ『デス・ミックス』にはその音質の悪さも相俟って呪術的な雰囲気が漂っているが、ジャクソン・ファイヴ「イッツ・グレイト・トゥ・ビー・ヒア」、グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴ「スーパーラッピン」、リック・ジェームス「ファイアー・イット・アップ」、クイーン・サマンサ「テイク・ア・チャンス」、コール・キッチン「キープ・オン・プッシン」……と、ブレイクをねちっこく2枚使いしていった後、この音源を初めて聴いた日本人が驚くのは、YMO「ファイアー・クラッカー」がかかることだろう。

クール・ハークが主にR&Bやファンク、ラテン・ロックのブレイクを使っていたのに加えて、バンバータはザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、ザ・モンキーズ、フライング・リザーズ、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、ゲイリー・ニューマン……果てはTVから録音したコマーシャル・ソングまでかけた。彼はそのような他の誰も知らないブレイクを見つけるため、ニュージャージーやコネティカットといった他州まで足を延ばした他、ヒップホップ・DJにしては珍しくレコード・プールに入会して、新譜を片っ端から聴いていたという。十八番はクラフトワーク「トランス・ヨーロッパ・エクスプレス」とマルコム・Xのスピーチのミックスだ。あるいは、ジ・オーガニゼーションはズールー・ネイションへと発展し、インフィニティ・レッスンズと呼ばれる教義を掲げるようになったが、それは、ネーション・オブ・イスラムやファイヴ・パーセンターズに影響を受けつつも、ブラック・ナショナリズムではなくマルチエスニシズムを打ち出しており、様々な宗教や哲学のコラージュで成り立っていた。

つまり、バンバータが実践していたことは、音楽に限らずありとあらゆるものの良いところだけを抜き出して繋ぎ合わせるという〝ブレイクビートの思想〟なのである。また、そこからは、ひとつの明確なメッセージが立ち上がる。「ピース(平和)、ラヴ(愛)、ユニティ(団結)、アンド・ハヴィング・ファン(楽しむこと)」だ。ズールー・ネイションにとってパーティは宗教的な祝祭空間だった。ー抜粋終了。

つまり、全てはパーティーが始まりだった。DJもMCもグラフィティーもブレイクダンスもその要素にすぎない。ヒップホップとはパーティーという形態から進化発展していった文化なのだ。この「Death Mix」を聴くとそんなことを再確認させてくれる。その後、06年に〈Paul Winley Records〉は懲りずに「Death Mix2」、「Death Mix3」をリリースした。


余談だが、アパレル〈BBP〉からリリースされた〈Death Mix -T〉のデザインは秀逸。

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