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新井由木子【思いつき書店】

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「思いついたことはやってみる」と言うのは、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんです。世界文化社deliciou… もっと読む
運営しているクリエイター

#式根島

くどいバス/新井由木子

 バスに乗るのは、いつでもなんだか気持ちが弾みます。  生まれ故郷の式根島にはバスが走っ…

三本の指で命拾い/新井由木子

 伊豆諸島の式根島に暮らしていた幼き頃、よく家族揃って海遊びに出かけていました。  父と…

母心は飛行機に乗って/新井由木子

 わたしの故郷、伊豆諸島と本州を空路で結ぶのは、たった8人乗りのプロペラ機でした。  2…

無意識な音について、あらためて意識してみた/新井由木子

 その日、実家の居間では、母が趣味のピアノを弾いていました。曲は「あなたーの、燃える手で…

おばさんと呼ばれてゆるす場合とゆるさん場合/新井由木子

『150円ババア』 『コロネババア』  このキョーレツなあだ名は、わたしの営むペレカスブック…

なすすべはない/新井由木子

 島暮しの長閑(のどか)な夕刻に、その不思議な電話は連日かかってきたのでした。  今から…

ダブル帽子/新井由木子

「思いついたことはやってみる」と言うのは、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんです。草加と式根島を愛する肝っ玉母さんが、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴ります。  事態の偶然性は『奇跡的に』とか『奇しくも』という言葉と共に、わたしたちを驚かせます。それは日常でもまれにある事態ですが、あの時わたしたち一家に訪れた偶然性は、ただひとつでは終わりませんでした。わたしたちは冬の浜辺で茫然と、重なる奇跡を見つめて

昭和100円玉物語/新井由木子

 わたしがまだ小学校低学年だった頃のこと。式根島で暮らしていたわたしたち一家は、夏休みご…

島の雨/新井由木子

 六月に帰郷すると、式根島には梅雨らしい雨がザアザアと降っていました。  降り注いだ雨は…

素早いペットボトル/新井由木子

 坂道ばかりの島で、母に見守られながら、わたしは転がるペットボトルを追いかけていました。…

我が家の大声ダイヤモンド/新井由木子

わたし「なんで女は痛風にならないのかねえ!」 父「なるらしいよ、女も。閉経すると」 母「え…

路上にて(かなしみのマグロ)/新井由木子

 路上にて。人々はいつもどこかへ向かう途中です。夢が達成される目的地こそが楽園だと思って…

旅するパッド/新井由木子

soso cafeでおむすびばあさん(思いつき書店vol.010参照)を始めてから半年目のある日、わたし…

かんなんぼうし/新井由木子

 冷たい風の強い日です。こういう日はわたしの故郷、式根島の冬を思い出します。ビュウビュウと強い海風が常緑の椿や椎の木を揺すり、「ウサギが飛ぶ」と島の人が言い表わす白波が点々と、深い紺色の海の上に現れます。  式根島を含む伊豆諸島では、旧暦1月24日を『海難法師(かんなんぼうし)』の日と呼んで忌み日にしています。それは恐ろしくも暗い伝説によるものです。  昔、厳しい年貢の取り立てに来た悪い代官の船を島民たちが浸水させて溺れさせると、代官の体がバラバラになって各島に流れ着いた