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deleteCとの出会いに運命を感じて 医療チーム・松嶋恭子さん

 大学院生の時、deleteCと運命的な出会いを果たした看護師さんのストーリー。医療とは違った視点から”がん”を見つめて分かった新たな気づき。深く考えさせられた「患者さん」という言葉の意味。様々な経験を通じて松嶋さんは成長を遂げてきた。若さを生かして、若手の研修医さんに働きかけるなど、自分らしい方法でdeleteCの輪を広げている。

 新たな発見とともに成長できる日々

 「deleteCとの出会いに運命を感じています。」

 笑顔でそう話す松嶋恭子さんは看護師として活躍しながら医療チームの一員としてdeleteCに携わり、新たな発見とともに成長を続けている。現在は寄付を希望するがん治療研究の公募企画を担当。応募要項を専門的な視点からのアドバイスをもらいながら作成し、選考や授賞のセッティングなどを行っている。

 医療の現場で働く松嶋さんでも、がんの研究は箇所によってそれぞれ専門的な知識が必要で未知なことも多いという。

「何回も聞くフレーズで分かるようになってくる面白さがあります。医療制度の仕組みもひと通り表面的には学んでいるけど、お薬が保険を通る通らないとか、具体的にどう動いているのかはよく知らなかった。でもここにいると実践的に学べる。それにお医者さんが公募してくれたり、評価委員の中にいるので、公募活動をすることで色んなことを体験させてもらっています。」

 運命の出会いは大学院2年生の時

 松嶋さんがdeleteCに出会ったのは2019年2月、大学院生の時だった。

「deleteCで、自分になかった新しい視点を知って、すごく面白いなと思ったのが参加する大きなきっかけでした。」

当時、「デザインで医療を良くする」という学生団体に立ち上げから参加し、渋谷の「100BANCHI」に入居することとなった松嶋さん。そんな時、deleteCのイベントも同じ場所で行われることになり、松嶋さんの団体にもお誘いがあった。deleteC代表理事の中島ナオさんから、「アイデアがあったら教えて」と声をかけられた。

 松嶋さんは直前にリンパ浮腫の学会に参加し、そこで患者さんのために作られたかわいいデザインのアームウォーマーを目にしていた。

 「『そういうところから巻き込んでいけたら』とお話をした時に、『医療から始まると医療の人しか入ってこられなくなってしまうから、もっと広い視点で、医療を越えたところで色んな人を巻き込んでいければ』というお話を聞いて。私もまだまだ”医療”で頭がカチカチだなと思った。他の人の視点や、どんなお仕事をしているのか、自分の知らないことを学べたらと思いました。」

 deleteCのロゴやアイデアは、アメリカの「MDアンダーソンがんセンター」の名刺がもとになっていることを知った松嶋さん。

 「2019年1月、”J-TOP”という『MDアンダーソン』が日本で開催している教育プログラムに参加しました。その直後に、この名詞やロゴのお話を聞いたので、勝手に運命を感じました。」とほほえむ。

 また、deleteC代表理事の小国士朗さんは、認知症とともに生きる方を主役としたイベント企画をプロデュースしていることを知り、大学院で取り組んでいたテーマ「認知症とともに生きる方と社会生活」と重なった。より、deleteCとの親近感を感じたという。

松嶋さん①

 仲間たちの温かさを感じ

 当時、松嶋さんは唯一の学生参加者。参加してみて、「人こそがdeleteCの最大の魅力だ」と感じたそうだ。初めて参加したミーティング、2019年5月11日のイベント。「子供、大人、いわゆるギャルみたいな方も1つの空間にいた印象が、記憶に残っています」と振り返る。

 2019年9月から2月までは留学で日本を離れていた松嶋さん。帰国後も仲間たちは迎え入れてくれた。

 「コンセプトにある『あかるく、かるく、やわらかく』のように、どんな人にもオープンというのは感じていて、どんな人が来ても温かく迎えてくれるのは魅力です。2月のイベント『deleteC 2020-HOPE-』の準備は担当できなくて、ミーティングだけ参加していました。それでも関係を切らずに、帰国してからも受け入れて下さったのはすごく嬉しかった。」

 「私たちが面白そうだとか、行ってみようとか、deleteCって”C”を消すのが楽しそうだなとか。そうやって思える仕掛けを作ることで人の行動って変わるんだな。それはここで気づいたことですし、意識的に考えるようになった。」

 deleteCの仲間たちから得たのは大きなものばかりだという。大学院で認知症の勉強をしていた時、理詰めで課題解決をしようと呼びかけても社会が動かないことを痛感したが、ここでの活動で新たな視点が、ひとつ加わった。

 「患者さん」という言葉の意味

 中島ナオさんと接するうち「患者さん」という言葉の意味、「患者さん」へ接する気持ちも変わった。

 「ナオさんと普段接して、話しているだけだと、”がん”を患っているという事を感じない瞬間が多くて。看護で勉強して、患者さんって自分より弱い立場だったり、助けてあげたいと思うことが多かった。でもナオさんを見て、それってちょっと違うんじゃないかと思い始めた。患者さんであり、がんであることは間違いないけど、それはその人の一部で全てではない。これはすごく大事な考え方だなと。”その人の一部でしかない”という視点は、とても大事にしたい。何気なく使っていた『がん患者さん』という言葉も、ナオさんお話を聞いて、自分で経験する中で、センシティブに考えるようになったと思います。」

 松嶋さんは、この出会いを通して、医療の現場で働く上で、忘れてはならない感覚を得られたと感じている。

 いかに周囲を巻き込むか

 「今後、deleteCを広げるには、どうすれば人から人へうまく広がるかを考えることが大事」と松嶋さんは言う。

 「いい活動だと思って、ただ友達に話しただけでは『へぇそうなんだ』で終わってしまう。実際のアクションにつなぐのはまだ難しいなと思っている。共感してくれた人へ、”こうしてくれたらうれしい”ということ、その一歩が手軽にできるものを作っていければ。」

 若さも松嶋さんの持ち味。周りには1年目の医師の友人も多いという。現場の若者たちと一緒に、新たな形が生まれる可能性も感じている。がんを治せる日がくることを目指して、松嶋さんは、自分らしい視点からの行動をスタートさせている。

協力(企画 山口恵子 文 酒谷裕 編集 中島ナオ、徳井柚夏)

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