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第4回 自宅の謎レコードについて調べる: Cloud 9 - Do you want me


学生時代図に乗って購入したまま放置していた「DJ引退!備蓄レコード大放出!」ダンボールの解体を急ピッチで進めている筆者は現在絶望の淵に立たされている。
B●●KOFFでのバイト中妙に加熱し諭吉二枚を超える金額で落札してしまった「ハウス!」と銘打たれしダンボールについて、カレーと同じように「寝かせるほどいい盤が出る」と期待した筆者は、2022年に約8年越しでそれを開封することになる。

結論から言ってしまえば、その箱に刻まれた「ハウス」の文字は”四つ打ちだからハウスだと思うんですけド……”くらいの悪意に満ちたものであり、パンパンに詰まっていたのは全てJane Fitzに殴られてしまいそうな下劣極まるハードハウスと……恐らく現代においてはアムステルダムくらいにしか居場所がなさそうなハッピーハードコアだった。
8年間眼前で暖めた宝箱の中身が手に入れた時点から腐っていたと知った際の絶望たるや、本気で山に不法投棄しようと思い詰めたほどだった。

しかしながら筆者の胃の中には一筋だけ光が残されていた。
そう、転売である。
特にハッピーハードコアについてはサンプリングネタとしての需要やそれを下支えするカルト的人気が極々々々僅かに残されており、ソレに寄りかかればさすがに諭吉一枚くらいは賄える算段が立ちはじめていた。
幸いにも(一番信頼できない)Discogsの相場もやたらと調子が良さそうだ。コレも新たなレコードと出会うための糧なのだと言い聞かせ、おぞましい一枚一枚の目録作成及び清掃をこなしていく。

そしてディスクユニオン公式HPに「ハードハウス・ハッピーハードコア買取不可」の文字が記載されているのを確認し、全てを抱え山へ向かった。

ユニオン大先生が個人情報リストを丸っとクラッカーにブチ抜かれた影響で、買取詳細のページが状況説明&謝罪ページに置き換えられてしまっており当時の表記を確認は確認出来ないが、要するにどうにかしてハードハウスを処理しようとDJが大挙した歴史があったということであろう。筆者の手元にあるハードハウスの群れは完全に……うんちと化している。

さて、そんな肥溜めからハウスらしい雰囲気をたたえた盤が出てくるとなれば、どんな代物であっても極上の名盤に見えてしまうものである。
今回はそんな掃き溜めの鶴をひとつ調べていきたい。



◯諸元

・タイトル:Do You Want Me
・レーベル:Sub Urban / SU2
・アーティスト:Cloud 9
・発売国:US
・発売日: 1992
・ジャンル:House, Deep House, Garage House
・収録曲
A1 - Do You Want Me (Club Mix)
A2 - Do You Want Me (Bonus Beats)
B1 - Do You Want Me (Deep Dub)
B2 - Do You Want Me (Dream Instrumental)





◯聴いてみる


・A1 - Do You Want Me (Club Mix)

メイントラックとなる A1 はモダナイズされたガラージハウスといった趣で、リリースされた92年という背景に対しては、音色に一段抜けた先進性というか、ハイファイ感が現れているように見える。
時代とともに陳腐になりがちな過度の修飾が見当たらず、端正なディープ・ハウスとしても完成度が高いと感じられ、そのあたりが30周年記念盤がリリースされるまでに愛される所以のひとつなのではないかと勝手に想像している。


・A2 - Do You Want Me (Bonus Beats)

※参考動画無し。下に貼ってるBandcamp版でどうぞ。

こちらはドラムパートのみ。ロングミックスやサンプリング用だろうか。
単体で聴いてみると予想以上にドラムの威勢がよく、そのまま聴いても実に心地が良い。


・B1 - Do You Want Me (Deep Dub)

出頭からキックとともに開始されるDub版。
リードやヴォーカルの頻度が抑えられよりディープ・ハウスよりのアレンジとなっているものの、音色や構成に大きな違いはなくあくまでもエディション違いといった趣。
ディープ・ハウスにすぐヨダレが出る筆者は僅差でこちらのほうが好き。
本当に僅差だけど。


・B2 - Do You Want Me (Dream Instrumental)

ハウス的にはこちらが「Dub版」と言っても差し支えないインスト&短縮版。微妙に細部のアレンジも異なっている気がしないでもないが、ぼーっと聴いていたので詳細は不明。
ただでさえ覇気のないトラックがオフヴォーカルによりなおのことフニャフニャになっているものの、インストアレンジ大好き一派としてはスルメなこちらが最も好みのアレンジとなっている。





◯調べてみる

何故こちらの盤を対象としたのかといえば、コンポーザとして記名されている「Cloud 9」の字面が札幌の住人にとって大変ありがたいものだからだ。
札幌が誇るあの場所、Pre◯◯◯us ◯allにおいて毎月催されているレギュラーパーティ「Cloud 9」は純粋な”良い音楽”の怒涛の如き連打が押し寄せる何時何時お邪魔しても堪らないイベントだ。本年2022年に10周年を迎えたとあり尚のことありがたいキーワードとなっている。ちなみにこちらの記事を書いている本日8月20日もCloud 9の開催日だ(やった〜〜)。

さて、こちらのリリースは1992年、筆者が生まれる2年前に行われたようだ。Discogsでサラッと調べるだけでも13ものバージョンが見受けられ、広く普及した名盤との予想が容易に立つ。

それでは早速と最も気になる「Cloud 9」の素性について調べてみると……
なんと、ブルックリン生まれのハウスおじさま Victor Simonelli の変名ではないか。

Victor Simonelli といえば90年代初期における「Groove Committee」 名義での活動が最もメジャーかと思われるが、個人的に最も馴染み深い変名は『Do you feel me』をリリースした「NY's Finest』名義だ。ハウスマニアな実兄から突如渡された同曲は、意識していなかったクラシックハウスへの興味を向ける大きなきっかけとして大変気に入っており、今でもしつこく聴いている。


なお、上述の通りDiscogsには計13のバージョンが登録されているが、
そのうち後半にリリースされた7つは「Do you want me baby」と名称が異なっている。現行でデジタル音源が購入可能となっているものの、タイトルの差異と曲目の法則性が統一されていないためこちらに記載しておく。

・Do you want me(1992)(Sub Urban)
Sub Urbanから出たこちらが所謂オリジナル版で、曲目は上記諸元の通り。

・Do you want me(1998)(Locked On)
Locked On レーベルからリリースされたこちらはオリジナル版音源+新たに2ステップリミックスが収録されたもの。2曲のみでダブ版やビート音源は未収録。

・Do you want me baby(2012)
2012年に今度はToolroom Records(UK)からリリースされたもの。
オリジナル版音源+Dusky Remix+Dusky dub+Total Science Remixが収録されており、ややこしいことに「Baby」とタイトルが変化しているがオリジナル音源自体に変化はない。
デジタル版も併せてリリースされているが、Dusky dubは別リリース扱いとなっている。

・Do you want me baby(The 30th Anniversary Release)
こちらは「Baby」題だが収録曲目自体は92年版と同様になっている。つまり管理上は「Do you want me」と「Do you want me baby」という異題同内容の音源が並列することになる。
レーベルは「Unkwn Rec's」で、オリジネイターであるVictor Simonelli自身が主催となっているオフィシャルリリース。

・Do you want me baby(Bandcamp)


「Unkwn Rec's」が所属するレーベルグループ「VJS Production」がBandcampに販売フォームを構えているため、Bandcamp版が販売されている。収録内容自体は92年のオリジナル盤と同様だが、これまたややこしいことに曲名及び並び順が微妙に異なっているため一応以下に記載する。

1:オリジナル盤と同じ。
2:オリジナル盤だと3曲目。
3:こちらはオリジナル盤の4曲目:「Dream Instrumental」に該当する。
4:オリジナル盤だと2曲目。

ちなみにCloud 9名義でのリリースはこちらの音源のみとなっている。
何故かはどうせ探しても徒労に終わりそうなので調べていない。





◯余談:Cloud 9 ってどういう意味


Cloud  Nine とは、要するに概ねSeventh Heavenである。
ざっと英語圏における由来を調べたところ、以下の説が固そうだった。

1896年にIMO(世界気象協会)から発表された「International Cloud Atlas(世界雲図表集)」にて分類されていた10種の雲のうち9番目に位置する「最も高い雲:積乱雲」になぞらえて至上の幸福や有頂天の感を表すようになったもの

筆者のガバガバ意訳

複数の中心的宗教に跨る「天国」について、その内訳が全部で7階層あるという認識に依る場合に、最上層となる第7層を最大の幸福と捉える「Seventh heaven」という表現もほぼ同様の意味を表す慣用句として存在するが、
・「第7層の更に高みへ=7層+積乱雲=Cloudで9層(より高み)へ」
という流れでCloud nineはSeventh heavenの強調表現である、という言説も一部存在している。
またCloud nineとSeventh heavenを混同した「Cloud seven」という表現もあるようだが、こちらはどの場でも「誤用」と認識されているようだった。

つまるところどちらも「有頂天」と訳しておけば穏当そうな雰囲気である。



◯書いた人
・twitter:@dekkek
・instagram:@dekkekk

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