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第2回 自宅の謎レコードについて調べる: Mukundah - Cosmic Ocean

不可解だが、我が家には学生時代勢いで購入した謎の100枚入りアナログボックス群やいつ買ったか分からない謎のレコード群、買ったはいいが放置している盤の群れが至るところに鎮座している。
ランダムにピックアップした一枚を、せっかくなので音源の成り立ちについて調べつつ試聴を行ってみることにする。
アナログを収集する方なら必ず通るであろう「試聴しつつ”そうなんだ……”と頷く時間」をザックリ文字に起こしてみよう。




◯諸元

・タイトル:Cosmic Ocean
・レーベル:Soft Fur Recordings / CAT003
・アーティスト:Mukundah
・発売国:UK
・発売日: 不明(多分97年)
・ジャンル:House(A1)、Drum'n’bass(A1)(B1)
・収録曲
A1 - Cosmic Ocean (Cosmic Part H & J)
B1 - Cosmic Ocean (Marimba Dub)
B2 - Cosmic Ocean (Cosmic Vibes Mix)

◯マト……ですよね   これは


21年の暮れか22年年明けか、懇意にさせてもらっているレコード屋さんから「ヤフオクで大量の謎ハウスボックスを落札したから検品ついでに見てみないか」と連絡を頂いた。
このエントリ自体全く同じ轍を踏んだ結果部屋に山と積まれてしまった箱を崩すべく始めたものなので箱の中に詰められた盤の質には予感があった。
検品のお手伝いついでに品を覗かせてもらうと、案の定大半の盤に強烈なカビがこびりついている。どうやら90年代中盤から2000年代前半のハウス黄金期にDJをされていた方のストックだったようで、大量のJunior Vasquezリミックスやnite groovesのシールド状態のハードハウス盤などが涙を誘う。

結局Urban Soulの未リリース集やCosa NostraのヤバそうなSatoshi Tomiieリミックス盤、その他クラシックとポップスの間にあるいわゆる例の時期のハウスが大量に見つかったので、20枚ほど直感で購入させてもらった。
今回はその中の一枚について調べてみることにする。




聴いてみる

・A1 - Cosmic Ocean (Cosmic Part H & J)

情報で猫がうねる黄黒のラベル……これは間違いなくヤ◯トじゃん、と確信のもと購入したこちらの盤。針を置くと出だしからタブラ、後を追ってすぐシタールの音色が聴こえだす。というかラベルに思いっきりタブラとシタールがプリントされていた。
トラックは中盤トライバルハウス、後半からはキレの鋭いドラムンベースへと足元を変更しつつの進行となっている。妙に脱力した女性のコーラスがトラックを通して設置され、全体としての質はタイトで上質ながら、若干ではないカルト感が醸し出される。
南アジアの香り漂うドラムンベースと言えば安直にTalvin Singhを思い出すが(ロンドン生まれらしいけど)、インド伝統音楽とドラムンベースの相性が良いのは何故だろう……どちらもリズム周りの拍取りが細かいから馴染みが良い、とかなのだろうか。
なんにせよ曲構成、音色の構成ともに特異な点が強めながら一貫してシリアスであり、大変耳触りの良い一曲となっている。


 


B1 - Cosmic Ocean (Marimba Dub)


続くB1『Marinba Dub』は一転してマリンバ一点勝負の端正なディープ・ハウスだ。ハウスラヴァーの大好物マリンバに「Dub」とくればありがたいトラックが収録されている予感がギンギンしていたが、まさに予想通りの激渋ディープトラックである。生楽器サンプルと思われる肉厚なキックは現代的で、現代のフロアで使用しても全く遜色のないガチゴチフロアユースといった趣がたまらない。
90’s特有のコミック的、ポップス的演出に傾倒してしまいがちなハウスシーンにおけるリリースの中からこのようなストイックな一品を見つけると、思わず歯を食いしばってしまうような歓びに駆られてしまう。



B2 - Cosmic Ocean (Cosmic Vibes Mix)

(参考無し)

こちらはA1後半に組み込まれたドラムンベースパートを独立させ、より純粋なドラムンベースに仕立て上げたといった形。キックがマシンドラム的なごっついものに変更され、リリースが遠くまで拡散する聴き応えのある低音域になっている。その他A1、B1では見られなかった空間系シンセが追加され、最も「Cosmic」という表現に近いトラックという印象だ。印象は上記2曲に比べ薄いが、これはこれで良い。




調べてみる

早速「Mukundah Cosmic Ocean」で検索してみると、Discogsおよび上述のYoutube動画意外はレコードショップのアーカイブが1件あるのみの結果となった。国外サイトを含めての結果のためこれは……カルトの予感がする。

僅かばかりの情報を統合すると、どうやらコンポーザであるMukundahはこの一枚をリリースしたのみで活動を終了してしまったようだ。
リリース年はDiscogsにて未記入となっているが、唯一Webでの取り扱いを行っていたCCC Recordsさんの説明文にある「ミッド90’S カルトレーベル Soft Fur 」との記載、およびそのレーベル「Soft Fur」からの他リリース計2枚が全て1997年に固まっていることから、同レーベル最後のリリースとなるこちらも同様に1997〜8年辺りのリリースであると見るのが妥当だろう。

CCC Recordsさんの該当ページ
http://cccrecord.com/?pid=92297629

レーベル自体の情報についても海外ポータル「RYM」にたった一文が記載されているのみとなっているが、それによると創設はロンドンにて1997年となっているため、統合すると1997〜98年周辺に3枚のリリースを行ってすぐ活動を停止したロンドンローカルの超小規模レーベル、といったところだろうか。

RateYourMusic 該当ページ
https://rateyourmusic.com/label/soft_fur_recordings/


同レーベルからMukundah以外に行われたリリースのコンポーザ「Space Foundation」および「K.T.X」の両氏についてもリリースはその一枚ポッキリとなっているため、まさしくレーベル・コンポーザ共に霞に近い存在の”カルトレーベル”であったようだ。
このような盤が……巡り巡ってこの部屋に辿り着くとは、そんなこといちいち考えていたらキリがないといえば身も蓋もないが、幾分数奇なものだと感じる。


ちなみに
こちらの盤、Discogsで相場が平均6000円ほどとプレミア。
Space Foundationの盤が100円以下、KTXについても1000円程度なのでレーベル自体への評価というわけではなさそうだが……検品のお駄賃として云十円で購入させてもらった品のため個人的に妙な忍びなさがチラつく一枚である。



◯書いた人
・twitter:@dekkek
・instagram:@dekkekk

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