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第1回 自宅の謎レコードについて調べる : If It Aint Jazz Volume 3

不可解だが、我が家には学生時代勢いで購入した謎の100枚入りアナログボックス群やいつ買ったか分からない謎のレコード群、買ったはいいが放置している盤の群れが至るところに鎮座している。
ランダムにピックアップした一枚を、せっかくなので音源の成り立ちについて調べつつ試聴を行ってみることにする。
アナログを収集する方なら必ず通るであろう「試聴しつつ”そうなんだ……”と頷く時間」をザックリ文字に起こしてみよう。


◯諸元

・タイトル:If It Aint Jazz Volume 3
・レーベル:If It Aint Jazz / IIAJ003
・アーティスト:Laroye
・発売国:US
・発売日: 10-2021
・ジャンル:House(A1)、Jazz-Funk / Disco(B1)
・収録曲
A1 - Leaving This Planet (Laroye Rework)
B1 - Phantazia (Laroye Rework)

肉厚重量盤でメチャクチャエロい



聴いてみる

今回は「If It Aint Jazz」レーベルからリリースされた『Laroye - If It Aint Jazz Volume 3』について。『主婦の友』を出版する「主婦の友社」みたいだ。

いきなりジャズサンプリングモノから始めたのはマズかったかもしれない。
ジャズおんじ達のような狂気漂う知識は持ち合わせていない……「Art Blakeyって人知ってる」くらいしかわからない。
取り急ぎ表題が「If It Ain't Jazz(もしジャズじゃなかったら)」というくらいだからジャズサンプリングモノであると決め打ちしてよさそうだ。



A1 - Leaving This Planet(Laroye Rework)


熱い展開と魅力的なリードシンセ、恐らくサンプリングと思われる掠れたボーカルが飛び抜けた高揚感をもたらしてくれる非常に質の高いハウスだ。Full Intentionが好んで使いそうな……午前3時過ぎにメインアクトがドロップして去っていきそうなパンチ一直線のトラックとなっており、筆者の心臓がギュッと歓ぶのを感じる。



B1 -  Phantazia (Laroye Rework)


……A面に比べ随分と渋いディスコだ。Discogsでは「Jazz-Funk」とも打たれているが、ディスコと”ジャズ・ファンク”の差異が筆者にはわからないため見なかったことにする。
特徴的なストリングスのフックに基本的な展開を一任した抑揚少なめのトラック運びはいかにもフロア映えしそうな腰の強さで、且つ余計なボーカルやSEが設置されていない端正さは控えめに言って激渋だ。
こちらも恐らくジャズサンプリングモノであると思われるが、筆者には出自がさっぱりわからない。




調べる

案の定元ネタについてもリミキサー側についてもさっぱり分からないのでひとまずA面だけに焦点を当てることとし、曲名「Leaving This Planet」でググってみると……すぐ出てきた。
どうやらCharles Earlandというオッサンが1973年にリリースしたリーダーアルバムの表題曲がコレということらしい。
以下、佐藤達哉さんという方が強烈な熱気で記載している同アルバムの解説記事が有るので詳細はそちらを参照されたし。

Leaving This Planet / Charles Earland
https://note.com/tatsuyasato/n/nf2e77091c58a

佐藤達哉 さんのnote

また、『Sax & Brass』においてもディスクレビューが記載されているのでいかにリンクを添付。

今回の”裏”Recommend Disc
『Leaving This Planet』 Charles Earland
https://rittor-music.jp/saxbrass/column/funkdisc/8058

Sax & Brass


Earlandおじさんは1970年から米国で台頭したサックス&シンセ奏者で、グラグラと煮えたぎる特有のグルーヴから「やべぇバーナー(the mighty burner)」と呼ばれていたそう。
今回のサンプリング元となっている『Leaving This Planet』は原曲自体がハウスDJの間でアンセムとなっているとのことで……そうなんだ……


『Leaving This Planet(Laroye Rework)』のイントロから炸裂するギュッと密度の詰まった高揚溢れるトラックは、キックが入るまでどうやら丸々オリジナルからのサンプリングのようだ。やり口がヴェイパーウェイヴ界隈と似ているな、と思いつつしかしレーベル自体が「これがジャズじゃなかったら(ハウスだったら)」と滾らせる妄想を具体化するコンセプトだとすれば露悪さは見受けられない、といったところ。
元ネタ自体のエネルギーが完全に過多なため、足回りが現代的なキックとBPMで固められたとあれば得られる高揚はなおのこと増強される。元ネタに古くから馴染みのある人にとって現場でクスッとなるリミックスワークなのか否かは筆者には分からないが、とにもかくにも是非ピークタイムにブチ込んでほしいと望まざるを得ない「素晴らしいハウス」であることは間違いない。

結論から先に言うと、このアルバムでチャールズ・アーランド(org, keys)がおさらばしようとしているのはタバコと安酒と汗の匂いの染み付いた黒人クラブであり、ねっとりとしたブルースの響きと時に過剰な熱狂をもたらすグルーヴをもったソウル・ジャズであり、いつまで経っても戦争や差別や格差の無くならない社会であって、かたや宇宙船に乗ってたどり着こうとしているのは平和でクリーンな近未来的世界と、そこで鳴らされているべき洗練された音楽なのではと思うのです。

Sax & Brass

1960〜1970年近辺と言えば公民権運動の結実後に「血の日曜日」が発生するなど依然米国に強烈な抑圧が横たわっていた頃……そう照らし合わせると『Leaving This Planet』という総体が急に胸に迫ってくる、気がする。
こちらのリミックス盤がリリースされたのは2021年の暮れ。現代的な足回りと共にBPMが上昇した本曲は、40年の時を経て些か早くこの銀河を離れられそうな様子である。



レーベルについて

レーベルについてはDiscogsに以下の記載がある。

Edits label based in New York.
https://www.discogs.com/ja/label/1740673-If-It-Aint-Jazz

discogs

情報が薄い。
リリース第一号となる『If It Aint Jazz Volume 1』が2019年12月、Volume2が2020年7月のため、毎年1枚のスローペースでリリースを続けている新興レーベルのようだ。
諸々のレコードショップを巡って調べたところファウンダーは「G.A.A.M.」や「Basic Fingers」「House Of Disco」からリリースを重ねてきたラテンをハウスに変換おじさんことエディット専科Aroop Roy(レコ屋さんの情報源マジでホント凄いですよね……)。
確か他にも自身のレーベルとしてラテン・ファンクモノのエディットをリリースする『Kampana』を所有していたはずなので、ジャズモノ用として新たにレーベルを立ち上げた形なのだろうか。
年ごとのリリースであれば追っても大変懐に優しいので、今年のリリースも楽しみにしたい。




自宅に転がっていた他のCharles Earlandさん

なんとなく思い立ってDiscogsのコレクションを「Charles Earland」で検索してみると、2件引っかかった。

Minimal Recordsから1991年にリリースされた『Pleasure Pump - Over & Over』にはキーボーディストとしてEarlandおじさんが参加している。
逝去の年が1994年とのことで、その3年前のレコーディング作となっているようだ。残念ながら自宅の何処に眠っているか分からないのでYoutubeを探すと、B面最後の謎ミックスが見つかった。
オリジナルミックスを一切憶えていないが……Earlandのキーボードがちゃんと使われてるのかは怪しい雰囲気だ。


もう一枚は我が家のヘビープレイな一枚「Jazz juice Vol.2」に収録されている『Murilley』だ。
これは多分……大概の人間が聴いたことのある曲だと思う。なんなら地上波CMとかで使われてたような気がしないでもない。面倒なので調べないけど。
ジャズについて褒め称える語彙がさっぱり無いので「楽しそう」とか「ありがたい」くらいしか言えることがないけど、しつこくしつこく聴いてきた一曲であり、そんな近いところに潜んでたのでEarlandさん……と驚いた。



◯書いた人
twitter:@dekkek
instagram:@dekkekk

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