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第3回 自宅の謎レコードについて調べる :Dave Kurtis - Vol.01

不可解だが、我が家には学生時代勢いで購入した謎の100枚入りアナログボックス群やいつ買ったか分からない謎のレコード群、買ったはいいが放置している盤の群れが至るところに鎮座している。
ランダムにピックアップした一枚を、せっかくなので音源の成り立ちについて調べつつ試聴を行ってみることにする。
アナログを収集する方なら必ず通るであろう「試聴しつつ”そうなんだ……”と頷く時間」をザックリ文字に起こしてみよう。




◯諸元

・タイトル:Vol.01
・レーベル:無し(恐らく個人リリース)
・アーティスト:Dave Kurtis
・発売国:Germany
・発売日: 2005年1月12日
・ジャンル:House
・収録曲
A1:Bodyworkin'
A2:Workpussy
B1:Don't Call On Me
B2:Natural High




聴いてみる

A1:Bodyworkin'


ごっつめな男性ヴォーカル素材を中心に組み立てられた……無難なハウス。
構成としてはDeetronにありがちな雰囲気のミニマル寄り。
足回りは割とハイファイな音色で、ストリングスやウィンドチャイムらしきものもサラッと仕込まれた洒落気味トラックだが、ひたすら「Bodyworkin」と繰り返される男声サンプルが邪魔。インスト版があれば大好物だと思う。



A2:Workpussy


実に軽快なディスコ、もといハウス。
イントロからカッティングが散りばめられたメジャー感全開の前半を過ぎると途端に痛快なストリングスと共に女性ヴォーカルが鳴り響く。
全体的にサチュレーションが掛かったようなザラつきに満たされており、また展開付けのために多用されるローパスフィルタと相まってフィルターハウスと形容してもよさそうな具合だ。
こちらのヴォーカルについては何となくサンプリングの気配がするが、生憎判断がつかない。聴き取れた歌詞で検索すれば引っかかるだろうか……。
曲全体を通して臭みがなく、かつアンインテリジェントでもなく、と非常に筆者好みの一曲だ。



B1:Don't Call On Me


いざ、という時に掛ける系の圧力満タンな素晴らしいハウス。
徹頭徹尾アッパーな構成の中、背後になるシンセパターンからは些かなクラシカルな香りがする。
こちらも音声サンプルらしきもの(元ネタが有るか不明)を繰り返すものとなっているが、A1と同様に若干のサチュレーションが作用しているような掠れた質感となっている。
臭みはなく、シンプルに聴きやすい一曲だ。



B2:Natural High


この盤における個人的大本命。
何故かこの曲だけコード感満載の男性ヴォーカルものとなっており、ハウス好きであればチョロっと転がされること請け合いだ。
ただ、とにかく音質がヤバい。ヴォーカルのエッジについてはやっすいラジオに北◯鮮のラジオが混波してしまったときのようにザギザギで、その他ハットなど上記の曲たちでは全く問題無しに再生できていた帯域も相当に荒くなっている。アナログシミュなど相当のエフェクトを通しているとも考えられるが、ヴォーカルの中域はよくよく聴くと全く問題ないので、サンプル側に問題が有るのだろうか。
素晴らしい一曲だが、盤の音質が誤魔化せないような環境で流すとエライ目に遭いそうな代物だ。




調べてみる

Dave Kurtisというドイツのオジサマは、どうやら随分と著名なDJ・トラックメイカーのようである。本人のキャリアや共演DJ、母国外の出演遍歴などは個人公式HPのプロフィールにまるっと記載されているのでそちらを参照していただきたい。

公式HPによればKurtisのキャリアは2004年から開始されているとのことなので、2005年にリリースされているこちらの盤はかなり初期のものになる……が、Discogsを見る限りでは全40枚中20枚ほどが 05,06年でのリリースとなっているためキャリアとしては中盤になるのだろうか。どっちでもいいけど。



こちらの『Vol.01』については些か出処が掴みづらいものとなっている。

まず上記4曲に加え3枚目C1、C2が追加された『I Love Disco Vol.10』が同年(月日不明)にリリースされている。『I Love Disco』シリーズはドイツのディスコ・ハウスレーベルである”Disco Galaxy Recordings”からホワイトレーベルをリリースする場合に用いられるサブレーベルのようだ。

『Vol.01』のリリースが2005年1月中旬であり、且つスリーブに「Dave Kurtis」と捺された個人リリースについては、ザックリ書けば「委託先が見つからなかった場合にとりあえずリリース」していた代物だったようである。『Vol.10』については発売日時が不明となっているが、C盤が追加されていること、またVol.10の発売以降I Love Discoレーベルの親元であるDisco GalaxyからDave Kurtisの盤が出されていることから、『Vol.01』の個人リリースをきっかけにDisco Galaxyからフックアップされ『Vol.10』が世に流れたと見るのが流れとして妥当そうだ。

(※更に調べたところ『Vol.10』はKurtisの『Vol.01』とUKのアーティスト”Rodeofunk”の『Vol.1』がコンバインされたものとして明記されていたので、上記の流れで確定の模様)

つまるところ、上記4曲が気に入って盤が欲しいとなった場合はI Love Disco版を買えばよいということだろう。単純にお得だし。




元ネタを調べる

レーベルからフックアップされる前のKurtis氏にヴォーカリストを呼びつけてのトラックメイクが行えたとは考えにくい。恐らく元ネタが有るだろう、とのことで最も歌詞が聴き取りやすいB2『Don't Call On Me』から調べてみる。


A2:Don't Call On Me

早速聴いてみると "Don't call on me  I engineer  All every mov…ホニャララ"という一節が聴き取れたので、「Don't call on me  I engineer」でググってみる。

……あっさり元ネタが出てきた。


Animotionという80〜90年代に猛威を奮った米国のSynth-popバンドがキャリア絶頂期であった86年にリリースした『I Engineer』という一曲らしい。現在に至るまでメンバーを変えつつ活動を続けており、チョイチョイ大手の歴史的格付けリストにフックアップされるなどしてSynth-popの風化を防ぐどころかリバイバルを起こしているレジェンド級軍団……ということらしいです。知りませんでした。エクスポゼしかわからないです。


原曲を確認してから再度A2を確認してみると、なるほどSynth-popであることを踏んだ上で固くエディットしているように聴こえる気がしないでもない。リードシンセからハットに至るまで全体的にマシンが刻んだような垂直感があり個人的には尚更好ましい。ヴォーカルの女性が緊箍児を嵌められた孫悟空みたいになっていることだけが気になる。



B2:Natural High (地獄変)

せっかくならもう一曲くらい元ネタを探そう、ということで4曲中最もお気に入りのB2『Natural High』を選択。上述の通り音質がガッジガジなので不安が募る。

……全然何言ってるか分かんない。マジでわかんない。ほんとにわかんないし、多分ある程度チョップされていて原詩と流れが異なってる。

とりあえず聴き取れた気がする単語を羅列してみる。
natural high / what a surprise / good love( your love?) / just like / before…
ガッサガサ過ぎてマジでわからない。回転速度を最大まで下げ、何度も繰り返してみる……Such a natural highって言ってる気がする。あとは……Eagleって言ってる気がする。鷲……?
「なんてこった、天然◯ャブアゲの鷲がおるぞ、Love」ってこと?
しかし天シ◯ブしか手がかりがない以上この手札で調べるしかない、ということで検索を開始してみる。


……滅茶苦茶ジョン・レノンが出てくる。何度検索してもしつこく絡んでくる。
ジョン・レノンがこんなハイテンポな曲を歌うとは思えないし、早回しだとすれば元々高音声なのでハエみたいな声になっているはずだ。聴くまでもなく除外するとして……ジョンレノンに絡まれないようもう少し検索ワードをひねってみる。




次は強そうなオバちゃんにしつこく絡まれ始める。
誰だよ! India Arieという方らしいが、どう考えてもこのオバちゃんから出る声では無さそうなのでこれも除外。
隙あらば出てくるので、彼女が出てこないような検索ワードを編みだすため歌詞を何度も確認する手間が発生した。
次こそは……と更に検索ワードをひねってみる。



光源を覆い隠すハゲ

誰だよ!
リリース年が02年なのでもしや……と再生してみるとブリブリのトランスが流れてくる。「特別クリスマスソング入り」の文字が気になって仕方ないものの、怒りの方が大きいため無視することにする。
ツルツルの頭に妙な説得力を感じ「ついに来たのでは」と胸に宿った期待を返してほしい。

このツルツルにもしつこく絡まれ始めたところで、ついに検索ワードの手札が尽きてしまう。2時間ほど時を費やした結果ハゲに根性を折られて終了するのはあまりにも徒労過ぎるがどうしようか……と悩みつつ、とりあえず一番最初の検索ワードに「-John -India -Jan」と追加して泣きの再検索を行うことにする。


……そういえば、検索し始めた頃からチラチラと出てきていたとあるページがあった。

ヤバい家電が破格で売られてそう

イントロ……? 海を翔ける恋……? JASRAC……? 
クリックした瞬間「お前のセキュリティに脆弱性やで^ ^」「VPN接続しようや^ ^」と煽られそうな気がしていたので直感的に避けていたが、万策尽きた今このリンクが掴める藁にしか思えなくなってきた筆者は思わずクリックしてしまう。
15秒ほどの不穏な読み込みを済ませ歌詞をザッと確認してみると……

あれっ!
「天シャ◯゛みたいな」「鷲」「Just like」「before」が揃っている……マジで?
もしかしてエロスパムだと勘違いしていたこのリンクが正解だったのか……?
3時間近く消費してしまった悲しみから震える手を抑え曲名を入力、検索してみる。


Percussion Intro / Call Me


ああっ、あっ、マジで大正解じゃないか!!
嬉しすぎて自室で「オエ!!!」と叫んでしまった。

美麗なパーカッションパートを挟んで始まる「Percussion Intro / Call Me』は、「電話せえ 電話せえ 電話くれたらそらもうブリブリよ」と愛を説く非常に爽快なヌケ感過分の一曲であり、シンプルに名曲といった趣だ。下手するとDave Kurtisのエディットより好きかもしれない。

こちらは 83年にリリースされたFinis Hendersonのアルバム『Finis』に収録されているものとなり、厳密には「B1a:Percussion Intro → B1b:Call Me」と2連作となっている。
国内盤が発売されておりタイトルは『真夏の蜃気楼』、『Call Me』は『海を翔ける恋」と邦訳されており、決して怪しい日本語ではなかったというわけだ。

こちらを適当にチョップしつつ早回しにしたのがB2:Natural Highという曲のようだ。おそらくターンテーブルでは可変域が足りずデジタル環境において加速を行なっただろうが、05年当時のエンジン側加工精度に関しては……お察しなので、B2の極端なガサガサ感はその弊害といったところだろうと推測される。

数時間程度で見つかるならまだマシな方とはいえ、本当に嬉しい。スケベリンクへのたゆまぬ警戒がこのような弊害を生むとは思えなかったという点においても非常に勉強になった。


Finis Henderson御大については存じ上げていないのだが、タワレコ公式に以下のような解説が記されている。

米・シカゴ出身の歌手/コメディアン/タレント。芸能一家で育ち、10代から歌い始める。1970年にシカゴ出身のソウル・グループ、ウェポンズ・オブ・ピースにリードシンガーとして参加。80年代にはいとこのアル・マッケイ(アース・ウィンド&ファイア)の手引きでロサンゼルスへ移り、モータウンと契約。83年に『フィニス』(邦題『真夏の蜃気楼』)でアルバム・デビュー。収録曲「スキップ・トゥ・マイ・ルー」がヒットし、特に日本ではカルト的な人気を博す。また、コメディアンとしても知られている。

2019/07/03 (2019/07/03更新) (CDジャーナル)

https://tower.jp/artist/288451/Finis-Henderson



アース軍団の手引でモータウンと契約、というだけで十分強い気がするが、『Call Me』のような素晴らしい一曲をこさえておきながら「カルト的」に収まっているというのは驚きである。
せっかくなので近々アルバム通して視聴を行い「カルト」の所以が有るのか無いのか確かめてみようと思う。



終わりに

リエディットモノといえば近年相場の高騰が著しいけれど、リエディットが「リエディット」として持て囃されるようになったのはいつからなのだろう。
原資の無いハウスコンポーザーがヴォーカルを丸っとサンプリングしてリリースする行いは近年に限ったものでは決してないだろうけど、05年にこのリリースを行ったDave Kurtisはいわゆる「ハシリ」の圏内に入るのか入らないのか、判断のつく識者の方が居れば是非教えて下さい。




◯書いた人
・twitter:@dekkek
・instagram:@dekkekk

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