見出し画像

名前が変わる君の話

俺だってなにか1つくらい 花束みたいな恋をしたことあるだろうって考えた。
絞り出した結果 2つエピソードがあって
ひとつは乳毛が生えてる女の子の話だったけど
それはちょっとなんかあれだからまた別の機会に綴ることにした。


大学生の頃の話
1年生の時からUNIQLOでバイトしてた

小さい店舗だったから 人数が少ない上にほとんどが学生だったこともあって結構頻繁に飲み会があった。
飲み会はみんなが集まりやすい五反田ばかり。

俺は遅番シフトが基本だったこともあって 早番スタッフとは飲み会のときくらいしか交流がなくて
早番スタッフは主婦だったりフリーターの人が多かったけど結構参加率は高かったと思う。

当時大学2年生だった俺の2つ年上で 専門学生だったか覚えてないけれど「早番にすごい美人が来た」って噂になるくらいには美人さんが入ってきた。

その彼女とは本当に飲み会の時しか顔を合わさないし
特に話すことはなかったのだけど
飲み会が始まって少し経って 最初に座っていた席なんかどうでもよくなってくる頃になると
喫煙者組のテーブルに座る俺の隣にきて「私も1本いいすか」ってピアニッシモを吸い始める。
「煙草吸うんですね」「彼氏には言ってないです」
年齢的に敬語を使う俺と
バイト歴的に敬語を使うその人
そんな感じだった。

なにか共通の話題があったわけでもないし
これを機に仲良くなって他の男性陣から一歩リードしてやる
なんてことは全くなくて

たまに飲み会で会って 煙草を一緒に吸う それだけだった。

春、彼女が学校を卒業するタイミングでバイトもやめた。
その年に行われた 納涼会とは名ばかりのいつも通りの飲み会に彼女が顔をだしてくれたことがあった。
どうやら ずっと交際していた彼氏と結婚するらしい。そのお祝いも兼ねての飲み会だった。

二次会か三次会か、終電もなくなった時間に 煙草がなくなってしまったので居酒屋を出てコンビニに行こうとしたらその人がついてきて「いつもお世話になってるんで」って煙草を買ってくれた。

別にお世話した覚えもないし わざわざ買ってくれたのはいいけれど 俺の吸ってるハイライトメンソールじゃなくてピアニッシモだった。 

そのままなんとなく たぶんきっと「酔い醒まし」とかなんか二人して言い訳をしたかは覚えていないけど
居酒屋には戻らず 深夜の五反田をぷらぷらと歩いた。
なんとなく 結婚の話には触れなかった。

大崎広小路の交差点で信号待ちをしながら「そろそろ戻りましょうか」ってタイミングで

「わたし、名字かわっちゃうんですよ」

誰に言ってるのかわかんないくらい そのまま無視してもいいくらいの声で言われた。

俺も たぶん「あぁ」とか「はい」とかしか言えなかったと思う。



それから暫く経って 俺もバイトをやめて 就職した。

就職してからも 定期的に飲み会があって 時折呼ばれることもあった。
そんなあるときの飲み会に 彼女が来た。

理由はわからないけれど どうやら離婚するらしい。

「やっと離婚できます。韓国に留学しようと思ってます。」
みんなに笑顔で報告していたのが印象的だった。
もう煙草は吸ってないのか 俺の隣で「煙草いいすか」って言ってきてくれなかった。


帰り道 みんなで駅に向かって歩いてる時に 大崎広小路の交差点で信号待ちしていた。
彼女が隣に並んだタイミングで

「わたし、名字かわっちゃうんですよ」

今度ははっきり言われた。
俺もはっきりなんか返事しようと思ったけど 前にいる人の「それ なんかエロいね」って言葉とみんなの笑い声で 有耶無耶になってしまった。


その後ほどなくして コロナが流行りだして 飲み会もなくなってしまい バイト先の人達とは集まることもなくなってしまった。

別に 恋をしていたわけではないけれど 俺だって菅田将暉になれたかもしれない。
もしかしたら本編よりも少しくらいはハッピーエンドだったかもしれない。

そういえばあの時買ってもらったピアニッシモってどうしたんだっけ?
匂いも味も思い出せないな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?