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踏み切りにて

踏み切りを渡るたびに、かなりの頻度で思い出す話がある。

「あんたは、幼稚園のころは、自転車の後ろに乗っていても、べそかいて踏み切りをわたれなかったのに...」

母親からのこのあとに続くのは、そのときどきで違う。
大学でひとり暮らしを始めて車であちこち平気に走りまわる、夜中にアイスホッケーしてあそんでいる、夜中まで帰ってこない、など...。

母親からしたら、あんなビビリな子が、どうして、まったくの世界なんだろう。

ねぇ、お母さん。わたし、踏み切りを渡るのが怖かったのには、理由があったんだよ。
もし、自転車のタイヤが踏み切りの溝にハマって、抜けなくなったらどうしよう。
もし、走って渡ろうとして、靴が溝に挟まって、向こうから電車が来たらどうしよう。
もし、もし....という思いがぐるぐると頭の中を駆け巡って、足がすくむ。そして、べそをかいていたんだよ。

いまでも、踏み切りを渡るときは、ほら渡れるよと心の中にいるであろう、小さな私に伝えている。

あたらしいことに足がすくんだり、言い訳を山のように積み上げようとして面倒に感じるものにも、同じように伝えるわたしがいる。

まったくためらわずに、ナナが軽やかに踏み切りを渡るたびに、あんたすごいねぇとほめている。
あまりにうれしくて、踏み切りの途中で撮影してみた。

何回も撮っていたら、チャリンコにのったお巡りさんに「線路上に立ちとまるとあぶないですよー」と声かけられた。
「はーい!」と返事をして家路に急いだ。




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