マガジンのカバー画像

書評

94
ヨミタイモノ、ココニアリマス。
運営しているクリエイター

#文学

小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささやきよ!』

Webちくまに連載していたときから楽しんでいた小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささや…

既視の海
12日前
11

四元康祐『偽詩人の世にも奇妙な栄光』

書けない苦しみ。溢れ出る驚き。 のちに偽詩人と呼ばれた吉本昭洋は、いずれも味わった。詩人…

既視の海
4か月前
19

梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』を読む。『家守綺譚』『冬虫夏草』の綿貫や高堂の朋友・村田が留学した土耳古(トルコ)の滞在記。ディミィトリスと訪れた古代大城壁の場面がいい。下宿先の鸚鵡もいい味を出してる。It' s enough! 終盤のディクソン夫人の手紙に胸を締めつけられる。

既視の海
1年前
13

グレイス・ペイリー『人生のちょっとした煩い』【書評】

グレイス・ペイリー『人生のちょっとした煩い』を読む。 グレイス・ペイリーが生涯で3冊しか…

既視の海
1年前
17

ポール・ハーディング『ティンカーズ 』を読む。病膏肓の時計職人が死の8日前から思い出すのは、自分を捨てた癲癇もちの父、心を病んだ牧師の祖父。幻覚の中で三人それぞれの人生が交差する。古き良きニューイングランドが味わい深い。一人の人生に絞り、じっくり描いてあればもっと良かったのに。

既視の海
1年前
5

ひとつの瞬間は永遠になりうる——ローベルト・ゼーターラー『ある一生』【書評】

1931年の冬の日、オーストリア・アルプスの麓で、壮年のエッガーはふとした予感から、山小屋で…

既視の海
1年前
6

はじめての小林秀雄

「批評の神様」とよばれる小林秀雄を読んでみたい。しかし、レトロな表紙の文庫本『モオツァルト・無常という事』は何だか難しそう。大学入試センター試験で読んだ批評『鐔』はチンプンカンプンだった。それでも、何だか気になってしまう。 なぜ小林秀雄に惹かれるのか。歯に衣着せぬ物言いでバッサバッサと対象を斬り、飛躍した論理も何のその、高尚な逆説は小気味よく、あまり意味は分からないけれど、どこか分かったつもりになってしまう。そんなカタルシスを感じたい。かつては、そういう読者も多かったという

音のない輪舞曲——アンナ・カヴァン『氷』【書評】

音のない輪舞曲が耳から離れない。 世界が氷に閉ざされる直前のモノクロームなパ・ド・トロワ…

既視の海
1年前
9

寺地はるな『みちづれはいても、ひとり』 #読了 。夫と別居中の弓子と、アパートの隣人で無職になったばかりの楓という不惑どきの女2人が、失踪した弓子の夫が目撃されたという島へ旅をするロード・ノベル。前向きな結末のはずが逆に、人間は本来どうしようもなく孤独なのだと痛感。再読必須。

既視の海
1年前
5

宮下奈都『太陽のパスタ、豆のスープ』を読む。婚約破棄されたOLの明日羽が叔母ロッカのすすめで「やりたいことリスト」を書き、実践し、自分を見つめ直していく。やりたいこと探しよりも、できることを増やす。毎日の暮らしを整えていく大切さを再確認。いい本というのは、勇気を与え、行動を促す。

既視の海
1年前
1

【書評】李 琴峰『五つ数えれば三日月が』

来日後たった3年の台湾出身作家が詩情あふれる日本語で書いた小説。 そういう見方が、好きじ…

既視の海
1年前
2

【書評】エリエット・アベカシス『30年目の待ち合わせ』

登場人物の感情移入と物語への没入だけが読書の楽しみではない。運命であれ因果であれ、人間関…

既視の海
1年前
5

エスプリのきいた愛の物語——ダヴィド・フェンキノス『ナタリー』【書評】

拝啓 足早に2月が逃げ去っていきます。忙しいとは心を亡くすことだとは、よく言ったものです…

既視の海
1年前
6

【書評】 李 琴峰『独り舞』

我を忘れるほど気持ちと物語にのめり込むのが小説を読む楽しみならば、今回は難しいだろうと考えていた。著者と主人公はともに外国を出自とする若い女性で、同性愛の物語を、純ジャパニーズでヘテロセクシュアルの中年男が読むのだ。 主人公を語り手はずっと「彼女」と呼び三人称で書いているが、そんな死への執着を独白するように物語ははじまる。死ぬことにとらわれ、なぜ自分が生きているのか分からない。幼いころからそう考え続けてきた台湾人の主人公・迎梅。小学4年生のときに惹かれた丹辰によって同性しか