「思い出す」のは過去ではなく、現在——有吉佐和子『悪女について』、宮本輝『幻の光』
拝啓
ついに入梅かという湿っぽい気持ちを隠せない一方、静かな雨音をききながら読書するのを心待ちにしています。雨や雪は、わが身が濡れたり凍えたりしないとき、眺めているのはいいものです。それを風情というのでしょうか。
手紙は不得手だといいながら、小気味よく言葉を重ねるあなたのお便りをうれしく拝読しました。手紙を含めて、文章を読むのは、書いた人の心持ちを「考える」、想像することです。それを小林秀雄は「思い出す」と呼びました。
さて、あなたの思い入れのある岡崎京子『ROCK』を