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難波優輝_2022年_アニュアルレポート

美学者の難波です。2022年の活動をリストアップしています。

執筆

[アニメーション]What Do Children Find in the End?[3月]

ループの観点からエヴァンゲリオンシリーズの主題を考察しました。初めての英語論考でした。ポイントは、エヴァンゲリオンシリーズは、「作品の再制作」という観点から物語内容の外からも批評するとおもしろい発見がある、という点です。

😊うれしかったポイント:英語で頑張ってまとまった論文を書けるんだという気づき。

What Do Children Find in the End? Neon Genesis Evangelion and Philosophy: That Syncing Feeling. 71-79 2022年3月.

[感情を作り出す]なぜ私はhyperpopをうまく聴くことができないのか?[3月]

「音楽を聴き続ける、ということは、感情のスタイルを作り上げていくことだ」と主張しています。音楽の趣味とパーソナリティの関係を研究してみたいと思いました。ちなみに、プラトンの音楽と性格論を意識しています。手がかりにしたのは、ネルソン・グッドマンの概念で、hyperpopを感情から考えた論考。

😊うれしかったポイント:音楽を論じるのは難しいのだが、感情からアプローチすると価値ある研究ができるのではないかと予感を見つけられた。

「なぜ私はhyperpopをうまく聴くことができないのか?――音楽のラベル、感情のスタイル、TikTokはロゼッタ・ストーン」『ユリイカ』 54-5(788) 163-172 2022年3月

[デジタルなおしゃれ]ヴァーチャルファッション[3月]

ヴァーチャルファッションの概説をする6ページほどの短い論考です。自撮り、バーチャルYouTuber、アバター、キャラクター……無数の「ヴァーチャルファッション」を「パーソン・ペルソナ・キャラクタ」概念を用いて分類しています。

😊うれしかったポイント:デジタルなおしゃれを軸に、新しいファッションのありようを考えるおもしろさに気づいた。

「ヴァーチャルファッション」『クリティカルワーズ ファッションスタディーズ』 156-161 2022年3月

[他者を考える]SFは他者を理解しそこない、ゆえに他者と出会い続ける[3月]

https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/81013310/81013310.pdf

作品を批評するとはどういうことなのかを考えながら研究しました。「心の理論」からSF分析してみることで、他者とどのようにつながることができるのか、作品を使って考える思考法が作品批評なのかもしれないと感じます。

😊うれしかったポイント:文芸批評よりの研究に初めて取り組めた。進化論批評を少しやってみたかったので、試すことができた。

「SFは他者を理解しそこない、ゆえに他者と出会い続ける––進化論、ヘプタポッド、ミモイド、人工神経制御言語」17 88-102 2022年3月

[SF短編]久しぶりにおばに会ったら脚が八本になっていた話[6月]

SF短編です。ファンタジックな雰囲気とミクロな人間の関わりをSF的なガジェットを用いて探索するのがとても好きだな、という自分の趣味を再確認できた作品でした。お気に入りです。

「おばの足が8本になった話」Annon Press[6月]

[逃避といき]メタバースは「いき」か?[8月]

メタバースで暮らすことは「逃避」なのか? だとして何が悪いのか? この奇妙な疑念を捉える概念が「いき」であり、「いき」とメタバースをめぐる美学をおこないました。メタバースのデザインを考えるときに、この現実とは異なる美的なよさを考えることが大事なのかもしれません。

😊うれしかったポイント:自分の体感する美的な感覚を説得的に提示できた。

「メタバースは「いき」か?」『現代思想』vol.50, 11. 76-85.

[ポルノグラフィの比較論]音声の何がエロティックなのか?[8月]

音声のポルノグラフィである成人向け同人音声から、私たちが音声を始めとする記号にどのようなエロティックさを見出すのか、「性的欲求を表示するかどうか」から分析しています。類する議論は美学には皆無なので、いいものを書けたと思います。しかし、ポルノグラフィの批評や制作に役立てるにはやや遠い気がしていて、もう少し実作者と一緒に議論してみたいです。

😊うれしかったポイント:ポルノグラフィの感性的な側面の研究にチャレンジできた。

「音声の何がエロティックなのか?」『奇想同人音声評論誌 空耳』37-49. 空耳製作委員会.

[廃墟の味わい方]みえかくれする人影––––廃墟と意図の美学[8月]

概念を作って、実際に自分でユーザーテストしてみる不思議な論文になりました。まず、廃墟のたのしみ方とは「再建された振る舞い」を想起することだ、という概念を作りました。そして、有名な廃墟である摩耶観光ホテルに実際に行ってみて、その概念が廃墟経験の説明に役立つかどうか確かめました。役立ちましたが、これまで廃墟研究では指摘されていなかった「意図の自由な戯れ」と呼ぶべき経験も起こっていました。かなり斬新な論文になってお気に入りです。

😊うれしかったポイント:概念工学をしている、という自己認識だったが、実際に役立つかどうかを自分でテストできたのがよかった。加えて、これから多用していきたい研究方法だと思う。

「みえかくれする人影––––廃墟と意図の美学」『フィルカル』vol.7, no.2 44-62.

[問いをうまく扱う]問いとは何か?[12月]

ラニ・ワトソンの「問い」についての論文を紹介しました。たくさんの記事が載っていて、哲学入門として最適なものの一つになっています。問いの哲学のトピックを認識論的な観点から論じるワトソンの研究はさらに紹介を続けてみたいです。

「問いとは何か?」『すごい哲学』総合法令出版社.

[自己啓発をゲームプレイから考える]自己啓発をプレイする[12月]

ゲームプレイをおこなうことで自己を啓発した経験から、自己啓発が何を目指す試みなのか「殺すこと」をキーワードに論じました。自己を啓発することの意味は、ビジネスにおける研修の良し悪しを考える上でも重要になってくるのではないかと思います。

😊うれしかったポイント:自分もエッセイ書けるのだという気づき。

「自己啓発をプレイする:カモン、ナイス、やられた」『BANDIT』2.

インタビュー

[VTuberのデザイン]キズナアイは“インターネットの神“になるハズだった 元Activ8創業メンバーが語る[7月]

キズナアイプロデューサーの松田純治さんに「キズナアイとは何だったのか」お話をお聞きしました。バーチャルYouTuberを論じる上で様々なヒントが詰まっているインタビューになりました。

[セクシュアリティの未来]やさしいバーチャルセックスの始め方 バーチャル美少女ねむが語る[9月]

バーチャル美少女ねむさんに、未来のセックスのあり方、セクシュアリティの可能性についてお話を伺いました。インタビュー後半で論じられた、性的な活動の自己表現というフレーズは、性表現を考えるにあたってキーになると感じています。

[人間の知性を創る]AIの発展に必要なのは「世界を体験し、老いることができるか」 AI研究者・三宅陽一郎と紐解く“AI進化論”[11月]

[AIを使いこなす]『AI BunCho』大曽根宏幸と作家・葦沢かもめインタビュー[12月]

AI研究者の三宅陽一郎さん、そして、AI執筆支援プログラムを制作されている大曽根宏幸さんとAIを用いた作品を多数執筆されている葦沢かもめさんに、AIと創作をテーマにお話をお聞きしました。AIをどうやってつくるのか、使うのか、両方の視点が語られたよいインタビューになったと思います。とくに、三宅陽一郎さんとのインタビューでは、私が作ったSF作品を読んでいただき、インタビューの発想を広げるという変わった試みをしてみて大成功したのでは、と喜んでいます。

研究発表

[アバター] "わたし"に触れるな:バーチャルなアバターに対する危害行為は中の人をどう傷つけうるのか?[1月]

VRChatでの性的加害行為やバーチャルYouTuberへの誹謗中傷が一般的な意味で成立するのは、私たちが持つ「呪術的感性」に基づくのではないか、と主張しています。

"わたし"に触れるな:バーチャルなアバターに対する危害行為は中の人をどう傷つけうるのか? アバター共生社会の倫理 セミナー・シリーズ 第3回 2022年1月30日

[ゲーム・メタファー] 隠喩としてのゲーム:人生はゲームとして生きられるべきなのか?[4月]

人生をゲームとして捉える隠喩的理解の問題について、認知言語学的な視点から論じます。

立命館大学ゲーム研究センター 2022年度第1回定例研究会 2022年4月17日

[認識論]サイエンスとアートは世界をどう認識するのか?[8月]

認識論と呼ばれる哲学ジャンルでは、知るとは何か、分かるとは何かが議論されきた。これまで科学にフォーカスが当てられてきましたが、近年、芸術を創り・鑑賞するときに起こる私たちの認識の変化にも注目が集まっています。その先導を行くのが、サイエンスとアートの認識を同時に研究する稀有な哲学者、キャサリン・Z・エルギン。彼女の魅力的な思想を紹介します。

「サイエンスとアートは世界をどう認識するのか? ––––True Enoughを中心にキャサリン・Z・エルギンの認識論を紹介する」2022年度哲学若手研究者フォーラム

[SF]アニマル・エイリアンと後味の悪さ[11月]

https://researchmap.jp/deinotaton/presentations/40476065/attachment_file.pdf

「後味の悪さ」という読後感の感覚をSF研究と美学の視点から明確化しました。

アニマル・エイリアンと後味の悪さ––––オクテイヴィア・バトラー「血を分けた子ども」をケーススタディとして 表象文化論学会|第16回研究発表集会|生き物から私たちを考える––––擬人主義・オルタリティ・動物文学 2022年11月12日

[SF]The Narrative Experience Scale of Science Fiction: Comprehension, Immersion, and Speculation [12月]

978名の参加者に5つのSF作品を読んでもらい、SFスタディーズの理論に基づいて作成した調査項目の結果から「SFらしさ」評価スケールを開発し「理解」「現前性」との関係を明らかにしました。

The Narrative Experience Scale of Science Fiction: Comprehension, Immersion, and Speculation Yuuki Namba, Miwa Nishinaka, Sachiko Kiyokawa, Dohjin Miyamoto, Tomoya Minegishi, Hirotaka Osawa and Ryu Miyata The 17th International Conference on Knowledge, Information and Creativity Support Systems(KICSS 2022) 2022年11月24日

[SF]2022年のSFスタディーズを眺めてみる[12月]

https://researchmap.jp/deinotaton/presentations/40691999/attachment_file.pdf

現代にいたるまでの&現代のSFスタディーズの紹介をおこないました。

2022年のSFスタディーズを眺めてみる 技術哲学研究会|定例会 2022年12月17日

[ユーモア・ケア]傷つける冗談?[12月]

https://researchmap.jp/deinotaton/presentations/40620344/attachment_file.pdf

傷つけるがゆえに、ケアをもたらすユーモアとは何かを、いじりの倫理学など、近年のユーモアの美学の議論を手がかりに考察しました。

傷つける冗談?「冗談を評価する」 2022年12月2日

おすすめ3選

どれか一つでも読んでいただけたらそれに優る喜びはありません。もし読んでいただけるとしたら、次の3選が特におすすめです。

1. 「メタバースは「いき」か?」:美学に関心のある人向け。新しい論述スタイルを見つけられた。
2. 「みえかくれする人影」:哲学者向け。新しい研究スタイルを提案しているので。
3. 「AIの発展に必要なのは「世界を体験し、老いることができるか」 AI研究者・三宅陽一郎と紐解く“AI進化論”」:編集者・インタビュイー向け。インタビューの新しい方法を作ってみたので。

おわりに

2022年も様々な人の力をお借りして、いろいろなことを考えることができて、とても楽しく、かけがえのない一年でした。これまで仲良くしてくれていた人々といっそう仲良くなれたし、新しく素敵な人と出会うことができたし、素晴らしく忘れがたい年になりました。2023年も何卒どうぞよろしくお願いいたします。

(文=難波優輝)

追記

公共とデザインさんの活動履歴をマネしました。参考にさせていただきありがとうございます。


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