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スイッチ

自ら命を停止する、体内埋め込み型スイッチが開発された。

ウェアラブル端末のノリで、気軽に搭載する。
CMでもカジュアルに宣伝されている。

切るときはいいが、自分では再起動できない
蘇りを求められる人だけが、再起動される。
家族や友人が多い人、独自の能力を持つ人は蘇ることが多い

悪用されるケースもある。
保険金目当てで他人に切られる事件が多発する。年金を目当てに、本人の意思に関わらずスイッチを延々とオンされる事件も発生。
賃貸マンションや公共の場でスイッチを切る者も現れ、事故物件が増加。
やがて、スイッチ切断には役所と承認者の認可が必要になった。

誰にも必要とされない人は、承認の上で悔いなく切れる。
本人は切りたいが、承認されない場合は切ることができない。
承認者派遣ビジネスや、プログラムを変更して、自らスイッチを切るシステムをつくる業者が現れた。
気の利いた「遺言」をつぶやくのがSNSで流行する

殺人事件は減り、自死が増える。
税収減を避けるため、国は総力をあげてシステム変更の抑止に乗り出す
税収が低く、医療費のかかる老人には認可を緩和、むしろ促進した。

政府は高齢化に歯止めをかけることに成功
スイッチの開発者は国民栄誉賞に輝く。

病院・介護施設・医薬品業者の需要は激減。副作用として、人気が無いのにスイッチを切らない老人を見る目が悪化。

日本は超若年化社会に突入
活気ある若者は限られた時間を満喫し、長い老後を心配せず生きる。
反面、忙しく働き、子を育て、退職後の余暇を楽しみにする、これまでの価値観は消え、太く短い生き方への関心が高まる。結果、時間を奪い合う

一次産業のようにキツイが、誰かがやらねばならない作業は人手不足。時間に融通が利く資産家に誰もがなりたがる。熾烈な競争。

競争力のない若者が多数求めるため、スイッチの価格が急騰する。
結果、スイッチは富裕層のアイテムとなり、高齢者に行き届かなくなる。
弱者の高齢化が始まった

粗悪品のスイッチを販売する業者がはびこる
一回の殺傷能力は低く、複数回の接種が必要。弱者は常習化し始める。
反社会的勢力はこれに目をつけてビジネスに。

良質なスイッチは、ゴールドカードのように社会的なステータス。
世界の価値観はスイッチに向う

老いてもなお、スイッチに関心を持たず、長く生きる者がいる。
金もなければ同年代の仲間もいない彼をテレビが不思議な目で特集する。

なぜ、スイッチを求めない?
「今が楽しいからさ。」

彼は人目を気にせず、機嫌よく生きるスイッチを心に持っていた。

#cakesコンテスト2020

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