村上春樹 ねじまき鳥クロニクルと旭川
最初に笠原メイを少しだけ紹介する
16歳のメイは時々真剣に死んでしまいたくなる女の子だった。学校とか家庭は好きじゃないけれど、そのせいではない。
衝動的にそう思ってしまうのだ。なぜなのかは、自分でもわからなかった。
あるとき、メイはボーイフレンドのバイクに乗っていて、彼の両目を両手で隠しバイクを転倒させてしまう。そのため、彼は死んで、メイは殻に閉じこもり全ての世界を遮断する。
メイがねじまき鳥さんと初めて会ったのはねじまき鳥さんの飼い猫が失踪し、猫を探しているときだ。
そのあと、今度は、ねじまき鳥さんの妻のクミコさんが、突然なんの前触れもなく家を出て行った。
ねじまき鳥さんはクミコさんを探しに、家の近くにある屋敷の井戸に入り、深い記憶の底に下りていく。
ねじまき鳥さんは、井戸の中で別の世界のホテルに入りテレビのニュースを観た。
「旭川で大雪が降って視界不良と道路凍結のために観光バスがトラックと衝突してトラックの運転手が死亡した」
そのあとクミコさんの兄のノボルが襲撃されたニュースが流れ、突然水が上がってきた。いつもの井戸でないことに気づき、メイの名前を呼ぶ。
その頃、メイはねじまき鳥さんに手紙を書いていた。
(眠っていると、急にねじまき鳥りさんの大きな叫び声が耳元聞こえて飛び起きたのです。部屋の中は真っ暗じゃありませんでした。月の光が、明るく差し込んでいました。大きな月が銀色のステンレスのお盆みたいに丘の上にぽっかりと浮かんでいるのが見えました。手を伸ばして字が書けそうなくらい。大きな大きな月。その月の光は、まるで水たまりみたいに床を濡らしていました)
ねぇ、ねじまき鳥さん.そんなところで一体何をしているの。考え事?
体が動かない.僕は溺れて死んでしまうかもしれない。
死ぬのは怖い?
怖い。
(私は月の光の上に座りました。光は私の体を不思議な色に染めました。そして、私は突然泣き出しました。いつもの泣いたカラスとは違って、泣き止むことができませんでした。まるで栓がごぼっと抜けたみたいに、どうやっても止まらないのです。大きな傷口から血が流れるみたいに、手のつけようもなく、後から後から涙が出てくるのです。影の私も泣いていました。影が本当の私かもしれません。
もし何かあったら、また私のことを呼んでください。おやすみなさい。)
この先は、無意識から現実に移行し、クミコさんは兄のノボルの入院先で、生命維持装置を外し、警察に出頭していた。
ねじまき鳥さんは、メイに助けられ、最後の言葉を伝えにくる。
さようならメイ、さようならねじまき鳥さん。🐤🐤
ねじまき鳥さんの潜在意識の世界でネガティブな旭川が映し出されたのは、偶然だろうか。
私には、現在の旭川が投影されてしまった結果かもしれない、と思えた。
間宮中尉を救った本田さんが旭川出身という設定も、そう思った理由の一つだ。
記憶に残った暴力は、水や空気の流れを変え、或いはそこに留り、
人々の意識の下に、静かに潜り込む。
今の旭川は街全体が暴力と恐怖に支配されてしまった。
だがもしかしたら、誰かの本気が、腐った水を全部抜いて、
無意識の世界に働きかけてくれるかもしれない。
メイがそうしたように、私もそれを信じたい。
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