23.勤労学生な生活② ルーティン
――不安だぁぁぁ
24歳になる年。俺は理学療法士になるため、専門学校の夜間部に入学し、勤労学生になった。
バイト、節約、学業、交友、健康、それぞれを両立しなければならない。
――不安しかなかった
しかし、やるしかない!! 自分との戦いだ!!
腹を括った俺は、生活をルーティン化することにした。
〈生活のルーティン(平日)〉
8時ごろ起床 → 弁当づくり&身支度 → 17時までバイト → 18時〜21時過ぎまで学校 → 22時ごろ帰宅 → 洗濯を回す → 弁当つくったときの洗い物 → 晩めしつくる(弁当用の食材を切って保存) → 食べる → すぐ洗い物 → 風呂(シャワーのみ) → 洗濯物を干す → 2時過ぎまで勉強 → 寝る → 起床……
ざっくりこんな感じ。
特に重視したのは効率だ。
例えば、帰宅してすぐに洗濯を回すことで、その間に晩めし〜風呂を完結でき、風呂を出たときには、すぐに洗濯物が干せる状態になっている。
帰宅後にひと息ついてしまうと戦意喪失する可能性が極めて高いため、感情を無にして、ただひたむきに行動に移すことを心がけた。
〈自炊のルーティン(平日)〉
弁当は、パスタ。
ナポリタンを毎日つくり続けた。
パスタは効率がいい。
朝起きたら、すぐさまパスタを茹でる。茹でている間に、寝ぐせを直したり、ハミガキや着替えなど、すべての身支度を完結できる。俺の身支度は10分もあれば事足りる。朝食は食べない。身支度が終わる頃にはパスタが茹で上がるので、すぐさま前夜に切っておいた食材を取り出し、ナポリタンをつくる工程に移すことができた。
起床から家を出るまでの所要時間、およそ20〜30分。
平日は、毎日、毎日、毎日、弁当はナポリタンをつくり続けた。毎日、昼休憩のときにナポリタンを食べているものだから、あるスタッフには「ナポリタン王子」と異名をつけられた。どんな王子だろうが王子は王子だ。人生のうちに王子さまになれる機会なんてそうそうないから名誉なことだ。――そうだなぁ、とりあえず王政のひとつとして税金の代わりにケチャップを納めることを義務化しよう。それとパーティ券は1枚、100ケチャップで販売。裏ケチャップは許しませんよ、ナポリタン王子の名にかけて。
晩ごはんは何を食べていたかというと………
パスタだ。
パスタは効率がいい。
パスタを茹でている間にあれこれできる。
一人暮らしのワンルームマンション。コンロは1つしかないので、調理は一品だけで済ませたい。一品で腹を満たし、且つ野菜や肉も摂取できるという面でもパスタは都合がいい。晩ごはんのときは、ナポリタンのときもあれば、バターと醤油で炒めたり、すこーーしだけレパートリーを増やした。もし、物足りないときは冷凍食品で補えばいい。
そのルーティンを続けているうちに「パスタを茹でる時間もったいないかもな」「もっと効率を求めよう」そんな気持ちが芽生えた。それに、パスタを茹でる鍋とナポリタンをつくるフライパン、大きな洗い物を減らしたかった。
俺はパスタをやめた。
『ナポリタン王子 王室を離脱』
さようなら。
今ごろ他国に移住して、カルボナーラ妃と試行錯誤しながら暮らしていることだろう。幸あれ!!
弁当は、米、冷凍食品を数品、ウインナー、玉子焼き。
品数増えてるやん!
だが、こちらのほうが効率よく、且つ時間を短縮できたのだ。
寝る前に炊飯器予約 → 起床 → 数種類の冷凍食品を一気にレンジでチン → 弁当箱にご飯をよそう → フライパンでウインナーを弱火で焼く&身支度 → 同じフライパンで玉子焼きつくる → それぞれ弁当に詰める
まぁ、こんな感じ。
その結果、
フライパン1つで済む。
弁当用の食材を切る手間を省ける。
身支度している間にウインナーと冷凍食品は完成。
ナポリタンより玉子焼きのほうが簡単で早い。
米は保存すれば晩ごはんに使える。
ウインナーを弱火で焼く理由は、焦がさないため。そして、身支度が終わるタイミングで焼き上がるように帳尻を合わせるためだ。洗面所とキッチンは廊下を挟んで真向かいにある。なので、ハミガキや寝ぐせを直しながら、ウインナーが焦げないように、時折フライパンに手を伸ばしウインナーをコロコロっと、これができた。寝ぐせを直しながら体を180度回転させ、フライパンに手を伸ばし、ウインナーをコロコロっ。ハミガキしながらフライパンに手を伸ばし、ウインナーをコロコロ〜。
晩ごはんもパスタをやめた。
肉野菜炒めだ。
肉は高い。なので、安くて量の多いウインナーを常備する。肉はせいぜい3〜4日で使い切る。肉を使い切ったら、当分の間はウインナーを使い続ける。すべての野菜をなるべく同じタイミングで使い切るようにし、野菜をまとめて買うタイミングで、肉も買う。肉を使い切ったらウインナー使う。
野菜・肉買う → 肉切れる → ウインナー使う → 野菜切れる → 野菜・肉買う……
このサイクル。
肉を買うときが嬉しくて嬉しくて。小さな喜びってこういうこと。
パスタのときもそうだったが、調理に使う野菜はキャベツ、ピーマン、玉ねぎなど、ピーラーや包丁で皮を剥く必要のないものしか使いません。皮を剥く作業がめんどくさい。
〈勉強のルーティン〉
一人暮らし、貯金なしの俺。
バイトは週6勤務。テストだからといってバイトを休むわけにはいかない。お金が必要だ。しかし、勉強に対する不安もめちゃめちゃあった。だから、コツコツ勉強することを心がけた。生活のルーティンに書いたように、学校から帰宅後、家事や食事などすべてを終えてから2時〜2時半まで勉強するようにした。テストの前日には4時頃まで勉強することもあれば、通勤の電車、バイトの始業前や休憩中なども、必要あらば勉強の時間に充てた。
このように生活をルーティン化した。
土日は学校がないのでルーティンは平日のみ。それは体調管理のひとつとして。体調を崩してしまっては元も子もない。また、心身の疲労を強く感じるときや、体調が思わしくないときは、無理をせず体を休めた。
それに、俺は体調不良で仕事(バイト)を休むことを「迷惑をかける」と思うし、体調不良であっても出勤した以上は、絶対に隠し通すというポリシーがある。体調が優れないことに気付かれて、気を遣わせることを「迷惑をかける」「申し訳ない」と思う。だから、特に仕事のときは、その時々の感情や体調に左右されることなく、いつも通りの自分でいることを心がけている。[3.俺はそんなヤツじゃない① 参照]
勤労学生になることを決めたのも、バイトを週6で入ることを決めたのも俺自身だ。まわりのスタッフたちに「しんどそうですね」「体調大丈夫ですか?」そういった言葉を言わせないことを、ひとつの目標にした。自分が決めたことだから。
結果的に、4年間でそういった言葉をかけられたことはなかったし、体調不良でバイトを休んだこともない(寝坊が1回あります……)。
学業に関して、在学中に自分に設けた目標があった。それは『4年の間に、いずれかの科目でクラスで1位を取る』こと。
その学校ではテストの度に、科目ごとに点数と順位が貼り出されるようになっていた。うちのクラスは30人ほどで、そのなかには大卒者など、様々な人がいた。それまでの俺の学業においての実績や基礎学力なんて、おそらく下の下レベルだ。
1位を取ることを目標にしたのは、単に周りと比べたいからではない。「俺はやればできるんだ」という証のために。「不安」を少しでも「自信」に変えるために。
その「目標」と「不安」がガソリンとなり、俺の細胞を奮い立たせた。ルーティンをこなすことに徹しているうちに、特に帰宅後「あれが食べたい」「これがしたい」などの欲が薄れ、食べ物に対して「飽きる」という感覚も薄れていった。只々、無心でルーティンに励んだ。
友達やクラスメイトと飲み行く機会も度々あった。その時間は、良い息抜きになったし、刺激にもなった。飲みに行った際は、特に食べ放題付きであれば、食べたいものをたくさん食べ栄養を蓄えると共に、心も満たした。
仲間と飲みに行く度に「この瞬間のために頑張ってるんだぁー!」と思えた。
その結果――
1年目の後期の終わり頃、とある科目で1位(同率1位)を達成した。
それまで、いずれの科目でも上位常連組のひとりではあった。2位、3位まで上り詰めることもあったが、1位はやはり簡単ではなかった。心が折れそうにることもあったがルーティン化しているお陰で、気持ちに左右されることなく取り組むことはできたし、「元々の学力を考えれば仕方ない」「そんな俺が上位にいるだけでも上出来やろ」と自分に言い聞かせた。
当初は4年のうちに、と思っていたが1年目で達成することができた。まだ3年もあるのだから不安が消えることはなかったが、嬉しかった。
平日に飲みに行ったり、外食をしてしまったときは、数日ルーティンが崩れてしまうこともあったが、1年目は概ねルーティンを続けることができた。
1位を獲得できた。
少々の自信もついた。
そして、
――燃え尽きた
『1位を取る』という呪縛から解放されたことと、『本気になれば俺はできるんだ』という少々の自信により、2年目以降はルーティンが崩れ、怠けることが増えた。1年目と同様のモチベーションに戻すことが難しくなった。だが、結果的にこれはよかった。崩れたとはいえ勉強をする習慣も、自炊をする習慣もなくなったわけではなかった。順位や点数にこだわることをやめたことで、自分なりに『勉強の質』を高めることができたし、『抜くこと』の必要性を感じることができた。
“人に迷惑をかけない”
その気持ちが消えることは決してなかったが、自身の目標のために、ひとりで戦えば、人に迷惑をかけることはない。
“人に迷惑をかけない”
俺に目標なんてなかった。そんな俺が自身の目標のために励めば、ここまで出来るんだということを俺は知った。
現在でも、ルーティンの名残がある。
俺は食べ物に対して「飽きる」という感覚が今でも薄い。毎日同じものを食べ続けることができる。
火が通っていてほしい食材に火が通り、何かしらの味付けがあり、腹を満たせればそれでいい。仕事が終わって、「今日何食べよう」を考えることがめんどくさい(笑)。
ここ3ヶ月ほど仕事の日はほぼ毎日、晩ごはんに焼きうどんをつくり続けている。帰宅後、すぐさま洗濯を回し、焼きうどんをつくる。
ちなみに、焼きうどんの前は焼きめしを3ヶ月ぐらい続けました。
そろそろ、違うものつくろうかな……
うーーーーーーーん……
やっぱ、焼きうどんで
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