3.俺はそんなヤツじゃない①

“人に迷惑をかけない”
 そうやって生きている俺は、自分のことなど気にしない。迷惑かけなければそれでいい。

 そんな俺は、職場の人たちや俺のことをよく知らない人たちからは、真面目、大人しい、優しそう、ちゃんとしてる、そういった印象を持たれることが多い。
 身長173センチ、体重65キロ。昔から顔が小さい、スタイルがいいなどとよく言われ、今でも実年齢よりは若く見られることがほとんど。

 だが俺は、みんなが思っているようなヤツじゃない。

   * * *

 俺は子どもの頃から身だしなみに無頓着なヤツだった。
 それは大人になっても変わらなかった。かつての俺は、ボタンが取れたシャツを平然と着用していた。
 ボタンが取れたシャツを着ても人に迷惑かけんでしょ?
 もし誰かにボタンが取れてることを指摘されたら「あ、ほんまや。気づかんかったわ」「俺もさっき取れてること気づいてん」などと誤魔化ごまかせばいい。
 そんな俺だったが「おかしいやろ」「恥ずかしくないん?」「新しいの買えよ」と、何度もそれを見ている人たちに、そういったことを頻繁に言われるようになり、鬱陶うっとうしくなってやめた。
 下手なりにボタンを縫い付けて着てやったぜ。ふんっ。

   * * *

 かつて俺は、部屋の鍵を閉めていなかった。
 出かけるときも、部屋に居るときも鍵を閉めなかった。鍵をかける、そのひと手間がめんどくさい。空き巣が入っても取られるものなんて無いし、取られたとしても自己責任だ。別に人に迷惑はかけないでしょ?
 鍵を掛けないから、間違えて鍵を持たずに外に出たことが何度かあった。マンション自体がオートロックなので鍵がないと入れない。だからそのときは、他の住人が出入りするのを待ち、偶然同じタイミングになったように見せかけてオートロックを通過する。だが、これが大変。
 防犯カメラもあるため、ずっとマンションの入り口で待機するのは怪しまれると思った。「あ、この人、鍵無くしたんやな」あるいは「すごい怪しいんだけど。侵入者? やばいやつ?」そんなふうに思われる可能性を避けたかった。なので、郵便受けを触るフリをしたり、駐輪場と入り口を行き来したり、入り口が見える範囲の自販機の前で待機しマンションのほうへ歩いてくる人が見えたら歩くペースを合わせながらマンションに近づくようにしたり、あくまでも偶然をよそおい、怪しまれないようにした。
 そのように孤軍奮闘し、運が良ければ10分もかからず、運が悪ければ1時間以上かかることもあった。夜中2時半頃、コンビニへ行ったときに鍵を忘れたときは絶望したよ……。

 あるとき、テレビで『ゾッとした話』をテーマに芸人たちがトークをしていた。渡辺直美さんが、俺と同じように部屋の鍵を閉める習慣がなかったと話をしていた。
『出かけるときも、部屋にいるときも鍵を掛けずにいた。そんなある日、深夜にマンションのインターホンが鳴り、モニターを見ると知らない男の人がいた。男を無視して、いつもは部屋の内鍵を掛けずに寝ていたが、そのときは内鍵とチェーンを掛けて寝た。するとまた、ピンポーンとインターホンが鳴った。しかも、そのインターホンの音は、オートロックのインターホンの音ではなく、部屋の玄関のインターホンの音だった。覗き穴を見ると、さっきの男の人が立っていた。すると、ドアノブをガチャガチャっと、それが1分ぐらい続いた。ガチャガチャしながら男の人が、ブツブツと何かつぶやいている。ドアに耳を当てて聞いみると「いっつも開いてるのになぁ」と。留守の間に部屋に入られていたようだった』
 こわっ……。
 俺はその話を聞いて、出かけるとき鍵を掛けるようにした。

 あるとき、飲みに行ったあと友達も連れて部屋に帰った。ドアの鍵を開けようと鍵穴に鍵を入れたが、なぜか回らない。何回やっても回らなかった。それでもドアを開けようとドアノブを何回もガチャガチャしたが開かない。
 あれ? おかしいな……。
 ふと上を見て気づいた「違う!」部屋の番号が……。部屋を間違えた、俺の部屋はひとつ上の階だ!!「やばいやばいやばい」そう言いながら、友達と慌てて俺の部屋まで逃げた。
 幸いにも、間違えた部屋から人は出てこなかったが、逆の立場になって想像してみた――。部屋にいるときに、ドアノブをガチャガチャされたらめっちゃ怖いよね……。ましてや入ってこられたりなんてしたら……。
 俺は部屋にいるときも、きちんと内鍵を閉めることにした。

   * * *

 部屋キレイにしてそう、物が少なそう、なぜか勝手にそんな印象を持たれることが多い。マジでやめてくれ。
 俺の部屋は汚い。部屋が汚くても人に迷惑かけないでしょ?
 汚いといってもゴミ屋敷みたいな、そんなレベルじゃないよ。衣類をたたむのがめんどくさいので、床、ベッド、ソファーに散乱している。いつかまとめて畳めばいい。
 ゴミはいちいちゴミ箱に捨てない。ゴミ箱を目がけて投げたゴミが床に落下しても放置、ゴミを床や机の上にポイってすることも多く、部屋にゴミが散乱している。いつかは掃除するのだから、そのときにまとめて片付ければいいと思ってる。
 その『いつか』が、なかなかこないものだから衣類やゴミが溜まっていくだけのこと。それでもいつかは掃除する。

 飲み会の後、数人で急遽うちで飲む流れになった。俺は「いいけど、10分だけコンビニで時間潰してきてくれ」と懇願こんがんする。その間に、全身全霊で部屋を片付ける。散乱するゴミをゴミ袋に回収し、部屋に散らばっているあれこれをクローゼットに押し込めるだけ押し込み、高速で掃除機をかける。たった10分でこれだけできることに自分で驚く。その度に普段から掃除しておけばいいと思うが、やらない。
 事前に人が来るって分かっているときは掃除をしてキレイにするのだが、他者から見るとそれでも汚いらしい。うちに来たことがある人たちの間では、俺の部屋が汚いと話題になる。話を盛られて「こいつの家、蜘蛛の巣あるから」などと、いじられる始末。
 でも別に気にしない、人に迷惑かけてないし。
 嫌なら来るな!

 そんな感じだが、今は昔よりマシになってます。
 今日も、床でくたびれたティッシュと机の上でミイラ化したミカンの皮を横目に、俺は眠りにつく。

   * * *

 俺は特に仕事のときは、いつも通りの自分でいることを心がけている。その時々の感情や体調に左右されることなく、いつも通りを心がける。
 そして、周りも俺のことを「いつも通り」そう思っているはず。
 俺は社会人になってから体調不良で仕事を休んだことがない。休んだ分、他の人の負担が増えてしまう……申し訳ない。ただ、俺も人間。体調が悪いときもある。
 社会人2年目のとき。仕事を終えて帰宅した夜、体温を測ると39.6度――えっ、死ぬやん。すぐに寝た。朝起きて体温を測ると38.6度――俺は仕事に行った。発熱以外の症状はなかったし、なによりも「休んで迷惑かけたくない」その一心で。
 仕事に行くと決めた以上は、体調不良であることを絶対に隠し通すというポリシーがある。体調不良に気付かれて、気にかけてもらうことを俺は申し訳ないと思う。もし気付かれたら俺の負けだ。できる限りいつも通りの自分を心がける。その日、通勤の段階で心が折れそうになったが、誰にもバレることなく1日を乗り切った。
 俺の勝ちだ! うぇぇぇぇい!! 俺は興奮する。

 そんな俺も一度だけ仕事を休んだことがある。休んだ理由は、体調不良と職場には伝えたが、本当の理由は寝坊だった。8時半までに出勤しないといけなかったが、俺は8時40分頃に目が覚めた。スマホを見ると、すでに職場や同期から何件も連絡が入っていた。休まないヤツが連絡もなく来ていないことを心配してくれたんだと思う。ましてや俺は一人暮らしだから。
 やばい、どうしよう……。寝坊したって言いにくいなぁ……。
 苦渋くじゅうの決断で、体調不良ということにして休むことにした。慣れないことをして、なんだか本当に体調が悪いような気分になった。
 翌日、出勤すると「体調大丈夫?」「休むの珍しいな」「無理せんときな」みんなが心配してくれた。仕事を休んだことが初めてなので、そんな状況も初めてだった。想像以上に心配されて、罪悪感がハンパなかった。
 寝坊したときは寝坊したって正直に言おう、絶対。そう誓った。

 明らかな体調不良で出勤することは、もし感染症だった場合に周りの人に移してしまう可能性があり迷惑になる、と友達に言われたことがあった。それは俺も分かる。
 ーー体調不良で、仕事を休むことが迷惑だと思う俺。
 ーー体調不良で、仕事をすることが迷惑だと思う俺。
 只々、体調が悪くならないことを祈るばかりだ。



 いろいろと書きましたが、俺ってこんなヤツです。
 普段、隠しているわけじゃありません。言わないだけです。言うタイミングがないだけです。
 どうぞみなさま、こんな俺を心置きなくいじって頂いて結構です。誹謗中傷も受け付けます。
 でも俺、人に迷惑はかけてないですよね??

 エッセイ

  作成中。不定期で更新。

〈目次〉
1.俺のプロローグ 〜迷惑をかけない〜
2.迷惑をかけないは迷惑をかけた
3.俺はそんなヤツじゃない①
4.部活の話 〜俺はキャプテン向いてない〜
5.上阪での失敗
6.今の自分は好きですか?
7.砕け散った好奇心
8.もしも俺が魚だったら
9.普通名詞の関係
10.何が迷惑になるか分からないから
11.初めての本気土下座
12.青鬼になろう
13.俺はそんなヤツじゃない②
14.教師にしばかれた話
15.初めての就職①  迷惑をかけないの力
16.初めての就職②  仕事を辞めれない俺が
                               店長になった
17.初めての就職③  スタッフからの手紙
18.初めての就職④  俺って
19.部活の話 〜悪い魔法使い〜
20.人類にラッコの本能を
21.失敗は成功の素(チャラ男風味)
22.勤労学生な生活①  不安
23.勤労学生な生活②  ルーティン
24.苦手は苦手でいい
25.勤労学生な生活③  4年間のあれこれ
26.やりがいを感じた話 〜残される側の悔い〜
27.分岐点は君がため①
28.分岐点は君がため②
29.分岐点は君がため③


 順番どおりに見てもらえると嬉しいです。


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