アクアポニックス経営の実際 ~成功者たちの現場から学ぶ運営のすべて~第3部:誰もが経験する?トラブル対応の実際
真夜中の警報音で目が覚めた。
「あの日は、本当に焦りましたね」
5年目を迎える山本さんは、初めての大きなトラブルを今でも鮮明に覚えているそうです。
循環ポンプが突然停止し、魚たちの命が危険にさらされた夜。幸い、すぐに予備のポンプに切り替えることができ、大事には至りませんでした。
「でも、あの経験が今の私たちの強みになっています」
アクアポニックスは、生き物を相手にする仕事。予期せぬトラブルは必ず起こります。大切なのは、それにどう備え、どう対応するか。今回は、現場で活躍する生産者たちの経験から、トラブル対応の実際を探っていきます。
予期せぬ事態との遭遇
「最初の1年は、毎日が新しい発見の連続でした」
群馬県で施設を運営する佐藤さんは、笑いながら当時を振り返ります。ある朝、施設に入るといつもと様子が違いました。魚たちの動きが妙に緩慢で、餌もあまり食べない。
「直感的に"何かがおかしい"と感じましたね」
すぐに水質検査をすると、アンモニア値が急上昇していました。原因は前日の給餌量の調整ミス。この経験から、佐藤さんは毎日の記録の重要性を痛感したといいます。
「今では、少しの変化も見逃さないように気をつけています」
経験が教えてくれること
静岡の鈴木さんの施設では、独自の「トラブル対応マニュアル」を作成しています。しかし、それは一般的なマニュアルとは少し違います。
「こうしなさい」という手順書ではなく、過去の経験を物語として記録したものです。
「魚や野菜の様子、天候、自分の直感...。その時に感じたことを、できるだけ詳しく書き残すようにしています」
なぜなら、同じトラブルは二度と同じ形では起こらないから。大切なのは、その時の状況判断の基準を共有することだといいます。
予防は最大の対策
「毎朝の見回りが、一番の保険です」
ベテラン技術者の田中さんは、そう語ります。
早朝、まだ暗いうちから施設内を歩く。ポンプの音、水の流れ、魚の動き、野菜の色づき。わずかな違和感も見逃さない。その習慣が、大きなトラブルを未然に防いでいるそうです。
「五感を使った点検。これは機械では代替できません」
コミュニティの力
意外だったのは、多くの生産者が「困ったときは電話一本」と口を揃えること。
「同業者とのネットワークは、本当に心強いんです」
休日返上で水質改善に取り組んでいた時、SNSで相談したら、すぐに近隣の生産者が駆けつけてくれたという話も。
「競争相手ではなく、同じ志を持つ仲間。そう考えることで、随分と心が楽になりました」
[続く...]