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辛坊治郎さん,"風のことは風に問え"

辛坊治郎さんの"風のことは風に問え",素晴らしい作品でした。

#読書の秋2022

"風のことは風に問え"はニッポン放送で,"辛坊治郎のzoomそこまで言うか"でラジオパーソナリティを務める,辛坊治郎さんの2021年4月に挑戦した,「一人ヨットで太平洋横断チャレンジ」の記録を記したエッセイです。

私は横浜から池袋まで毎日1時間をかけて通勤しているサラリーマンです。通勤時間は寝て過ごすか,時々面白くもないビジネス書を読みながら過ごしていました。ラジオを聞く習慣は昔から無くて,全くと言って良いほどラジオとは無縁の生活でしたが,あまりにもヒマすぎて,”amazon music”でぼっどキャストを聞くようになりました。

amazon musicでは,無料のBGMを聞き流す程度でしたが,試しに"辛坊治郎のzoomそこまで言うか"のポッドキャスト版を聞くようになってからは毎日の更新が楽しみになるほどハマりました。
辛坊さんの軽快なトークと深い知識は耳障りがよく,前日のニュースとは言え辛坊さんの解説でテレビの報道ではわからないようなニュースに対する深い理解を得ることができました。
ニッポン放送アナウンサー"増山さやか"さんとのやりとりは,話が脱線するほど,本来のニュースの筋とは違う道を辿れば辿るほど聞いていて思わずニヤッとしてしまうほど面白いものです。
番組冒頭増山さんが「辛坊さんが独自の視点で今気になる話題を忖度なく語るニュース解説番組です。」と言うのですが,まさにこの番組の要旨を捉えた挨拶だなと思います。

"高等生物の死亡率は100%"だからこそ幸せに死ねるかという問いに対する答えを見つける旅"太平洋横断"チャレンジ

そんな辛坊さん,2013年に一度盲目のセーラー"ヒロ"さんという方と太平洋横断チャレンジをして,失敗に終わっています。

 2013年6月24日早朝、私は目の見えないセーラー岩本 光弘氏(ヒロ)と二人で乗っていた28フィートのヨットを、マッコウクジラ3頭にぶつけ 沈没させてしまった。

辛坊治郎著,ニッポン放送,"風のことは風に問え"

"舞台女優を夢見て,一度はその夢を叶えた64歳女性が暴漢に襲われて亡くなってしまった。当時所持金は8円だった"という報道を見て,「厚生年金をもらって無難に生き長らえるのも人生だが,この人の人生はきっと全力で生き通し,そして夢の途中で亡くなっていったと考えた」と語っています。そんなこともあり「このまま死んだら後悔する。」と思い立ち,サイドチャレンジすることにしたそうです。
ヒロさんとの再チャレンジも一度は考えたそうですが,自身の知名度と影響力を考えて一人でチャレンジすることに決めました。

奥さんが"かおり"さん,ヨットの名前は"カオリンV(ファイブ)"

学生時代からヨット部に所属して(同期は不純だったそうですが),その縁でセーラーとして続けていたそうですが,少なからず危険が伴うため奥さんを説得するためにヨットに奥さんの名前を冠することで余計なハレーションをうまいこと避けていたそうです。さすがです。

往路,緊張の連続

出航した後も緊張の連続で読んでいてもその緊張感が伝わってきましたが,心に残った一文がありました。

「うまい!」、思わず言葉が漏れた。 私は誰も見ていない海上で、満面の笑みをたたえていた。腐ったオレンジ1個が脳にこれほどの幸せをもたらしてくれることを知って、改めて幸せとは相対的なものだと気が付いた。感じ方一つで、幸せはどこにでも見つけられ る。この腐ったオレンジが、間違いなく、太平洋横断中に食べた中で最もおいしい食品だ った。

辛坊治郎著,ニッポン放送,"風のことは風に問え"

「幸せとは相対的なもの」,とても共感できました。絶対的なものでないからこそ,人はそれぞれの幸せを見つけることができるし,相対的なものであると知っていれば幸せはそこら中に存在するものだと思います。
私には子どもが3人いますが子どもの成長を見て幸せを感じることができるのも「幸せとは相対的なものである」からだと思います。

自分自身が怖い"夜は何をするかわからない"

海面に浮かんで船を見送ったら、 次に待ってい るのは死の瞬間だけだ日中はどんなに暑くても理性が働くので、絶対に海に飛び込まな 自があった。 しかし、人間寝ぼけると何をするか分からない。 私は夜寝るのが怖くなった。夜ふと目覚め、暑さを避けようとふらふらとデッキに出て、 目の前の涼しそうな海に飛び込んだら一巻の終わりだ。 私は夜寝る前に必ず、入り口の二枚の差し板にロックを掛け、上部のスライディングハ ッチを完全に閉めることに決めた。

辛坊治郎著,ニッポン放送,"風のことは風に問え"

波乱続きの往路に引き換え,復路は"貿易風"を捕まえれば旅路は安定していたようです。(実際にはそれでも次々と問題はあったようですが,,,)
そのため,考える時間が往路よりも格段に増えて,貿易風による暑さもあり,眼の前の太平洋に飛び込んでしまいたくなることもあったそうです。「考える時間があると逆にストレスがたまる」というようなことを航海中のラジオ出演(2021年7月13日:辛坊治郎のzoomそこまで言うか:生存確認テレフォン)でおっしゃっていました。
孤独な旅路,往路で辛坊さんのアナウンサー人生を暖かく見守ってくれていた恩人の訃報などが太平洋ど真ん中の満天の星空の下では「生きることの意味」をより深く考える環境だったのではないかと推測します。

最終章”煩悩”というセクションで語っていたこと

太平洋中、正直いつ死んでもいい心構えはできていたのだ。そんなことを気にしていたら 出航できない人間はいつか必ず死ぬ。人間の死亡確率は100%だ。だからこそ生きている瞬間が貴重なのだ。いつ死んでも悔いがないように、一瞬一瞬を大切に生きる。 太平洋横断は、そんな「生きる」努力の結果でしかない。

辛坊治郎著,ニッポン放送,"風のことは風に問え"

"だからこそ生きている瞬間が貴重なのだ"。よく聞きそうなフレーズだし,そんなことを普段口にすることは絶対にないのですが,この本は"生きていること"を本当に実感することができた一冊でした。
"人生一度きり"だし,チャレンジすることはとても重要だし,有意義なことだと思います。ただ,"人生一度きり"は"ただ無鉄砲"ということではなく,自分の責任だと最後まで言いきれるほどの準備を積み重ねていくことも重要だということを教えてくださいました。

相変わらずポッドキャストで"辛坊治郎zoomそこまで言うか"を聞いていますが,この本を読んで,"土日子どもの野球を送り出した後のランニングの時間に聴く"というバリエーションが増えました。増えていく体重を少しでも抑えたいという煩悩の塊の動機ですが,これも辛坊さんが与えてくれた私にとっての新しいチャレンジwなので,辛坊さんに感謝です。

とても良い作品なので,ぜひ読んでみてください。
辛坊さん曰く,第8刷が誤字脱字が無くなった「完全版」だそうなので,購入の際は「何刷」かも,少し気にしてみると良いかもです。
ありがとうございました。

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