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【論文紹介】データから守備組織の穴を発見する【FCバルセロナ】

MIT Sloan Sports Conference2020で発表された論文を紹介するシリーズ第2弾 の今回は、『The right place at the right time: Advanced off-ball metrics for exploiting an opponent’s spatial weaknesses in soccer』というタイトルの論文を紹介したいと思います。著者はおなじみの、FCバルセロナ Chief ScientistのJavier Fernández(@JaviOnData)さんのグループの方。余談ですが、新型コロナの影響でオンラインで学ぶ場が各地で解放されいる中、「サッカーマティクス」の著者を中心としたメンバーで構成されたサッカーのデータ分析のためのYouTubeチャンネルが開設されました。

こちらのチャンネルのライブ中に、javierさん本人が語られていたエピソードがえげつなかったので、ご紹介します。

余談が長すぎましたね。本題に入っていきたいと思います。今回紹介する論文は、リバプールやバルセロナの分析チームでも活用されている、ピッチ内のスペースを評価するための手法であるEPV(ポゼッション期待値)をベースにして、守備組織のエラーに対して細かく分析していった内容になっています。ちらっとボリスタの記事を覗いていただくと、本論文での提案内容が頭に入って来やすいかと思います。

 1.   使用したデータセット

18/19、19-20シーズンのバルセロナ全試合のトラッキングデータとイベントデータをデータセットとして使用しています。(羨ましい)

2. 分析「CMFの背後のケアにはどちらのCBがでてくる?」

2.1 分析手法
守備組織における穴を発見するためにはまず、相手チームの攻撃アクションに対して、どの選手のカバーエリアであったかを特定する必要があります。そこで、ボール非保持時2分間における各選手の平均位置を計算し、それに基づいたボロノイ図を描くことにより、各選手の守備エリアとします。例えば、ブスケツからメッシへ縦パスが入る前のこのフレームでは、ヴィッツェルの守備エリアにメッシがいて、フンメルスが自分の守備エリアを超えて対応していることが可視化できます。こうした情報を集計することで、「鹿島のCBは、SBとCMFの後ろのスペースにでてくる」、「アトレィコのCBは守備エリアからでてこない」といった定性的な分析を、定量的に把握することができ、スカウティングに役立てることができます。

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2.2 分析結果
前節で紹介した「各選手の守備エリアの動的な割り当て」手法により、章のタイトルである「CMFの背後のケアにはどちらのCBがでてくる?」といった内容に対しても、定量的に・タグ付けなしに分析することができます。下記の表はその分析結果で、2CMFと1CMFの背後に出たパスの受け手に対して、もっとも近い距離にいたCBごとにパスの本数を示しています。例えば、右の表b)は1CMFのチームの例なのですが、RCBが飛び出してきていることがわかります(ダビド・ルイス?)。このスカウティング結果を利用して、「レイオフ(楔に対する落とし)後は、相手RCBの背後を狙う!」というパターンを、チーム戦術として有効に落とし込むことができます。

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3. 分析「どの選手の背後へのパスが致命的?」

3.1 集計方法
前章では、各選手の守備エリアの動的割り当てとパスの本数の単純集計によりスカウティングの材料となる定量的な分析結果を示しましたが、本章では冒頭で紹介したEPV(ポゼッション期待値)と組み合わせることで、相手チームの守備組織の穴を見つけるための分析を行います。そこで、選手ごとに、背後へ出されたパスの本数と、そのパスごとに計算されるEPVの増分(≒得点期待値の増分)の平均を集計することで、スカウティングのための定量的な材料とします。これにより、EPVの増分平均が大きい選手の背後が、そのチームの守備組織における致命的なポイント!と言うことができます。

3.2 分析結果
ここでは、バルセロナとCL18/19、19/20のGLで合間見えたトッテナム(上)とインテル(下)の各選手・チームの比較を行います。前線の選手の背中に出されたパスの本数が多いのは当たり前なのですが、両チームのSBを担当している選手のEPVの増分平均の比較をすると、それぞれのチームの守備における特徴を見て取れとることができます。トッテナムはSBの裏に出るパスのEPVの増分平均が大きいことから、「SB裏へのパスが致命的」というスカウティングの定量情報がわかります。また、両チームとのバルサの試合をご覧になった方はイメージがつきやすいと思いますが、ポチェッティーノ解任前のトッテナムはアタッキングに、そして今期のコンテのインテルはコンパクトな守備を、バルサに対して準備・実行してきたために、インテルのSB裏(多分WB)はトッテナムと比較してEPVの増分が低く、バルサとしても効果的な攻撃ができていなかったと解釈できます。

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4. 感想

バルサのInnovation Hubが絡んでいる論文は、いつも実用的で素晴らしいですね。と同時に論文化するにあたって、出したくない分析結果もあるのかなと推測しています。2.の実験結果はチーム名を伏せてあるし、3.のほうは2チームの比較だし。最後にjavierさんのひとことで締めたいと思います。

#spoana #スポーツアナリティクス #データ分析 #SSAC20 #バルセロナ

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