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詩『塔』

蜘蛛の巣が張り巡らされたベランダに軋む足音が響く、
増殖する苔の絨毯は闇夜に照らされ鮮やかに光る。
不完全燃焼の真っ赤な蠟燭を月灯りに静かに焼べる、
苺色に染まる太陽系最古の美術品を合図にして。

この氷菓みたいな塔を翔び立つ。

航空障害灯を掲げる摩天楼の密林を潜り抜け、
罵詈雑言で装飾された掲示板を突き破れ。
薬缶が沸かす金紅石色の湯気が結露する天井、
暖かい自分の部屋が欲しかっただけなのに。

氷菓みたいな塔の中で揺らぐ風前の灯火、
夢見がちと嗤われた過去を静かに焼べる。

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