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詩『紙一重』

故障した照度感知器のせいで取り残された光の隙間、
深煎り珈琲の表面に牛乳の泡沫が白雲のように浮かぶ。
円盤の海を泳ぐ蓄音機の針が増幅する録音スタジオの雑音、
翠玉色のマスカットの果皮を齧るとき溢れるあまいうしほ

目障りな光線に癒やされる日と、
平穏の毎日に苛立つこと。

蓋を閉め忘れた清涼飲料水で滲んだ鞄の中身と予定表、
未開封の避妊器具が横たわる抽斗に相合い傘の落書き。
球鎖の輪廻に絡まる別邸用の鍵が再生する幼少期の騒音、
煉瓦色のアーモンドの果皮を齧るとき拡がるにがいうつほ

耳障りな馬鹿話を笑い合う日と、
堅実な日常に疲弊すること。

その場凌ぎの卑怯な正解で終焉を迎えた世界を見渡して、
紙一重なゆらめきを漂う幸福を何度も想い出す。

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