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詩『生きる』

甘く酸っぱく色付いた葡萄の実が零れて紫の雨を注ぐように
無意識に蒔かれた種子は みどり色の産声を庭に根付かせる。
朝陽に浮かぶ飛蚊症の影が真白な世界を不完全にするように
言葉や記号の並ぶ紙束は 時間の蟲に喰われ焼け野原となる。

雨垂れの夜に稲光に遅れて鼓膜を刺激する雷鳴のように
無気力に泡立つ後悔は 祭りの帰路で眼から吹き溢れる。
夕陽に映える防災無線の夢が真黒な世界に帰宅を促すように
感情や記憶の混ざる脳髄は 制御装置に操られ機能停止となる。

暴れ狂う地面が自転車の銀色の骨組みを歪めるように
無意識に芽生えた思想は 外的営力に淘汰され姿を変える。
都会の誘蛾灯に飛び込む生命が減少傾向にあるように
憂鬱や喧騒で組成された街に 段々と馴染んでいく。

誰も辿り着けない場所で生き続ける、
作者に破り棄てられた詩のように。

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