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詩『私』

臍の緒が断たれた瞬間から
生命は自意識を押し付けられる。
羊皮紙を被った狼のように
虚無の骸に閉じ込められて。

夏場に冷房の効いた部屋で風鈴の音を聴くように
居心地の良い場所と言葉で身を護る。
蚊に刺され腫れた左腕を掻き毟るように
傷つけられたら躍起になって抗う。

本当は何も持っていないのに。

そこに舞い降りたのは
天使でも妖精でもなく貴方だった。
納屋の奥に眠っていた缶詰が開くように
私の心に亀裂が走った。

体温の優しさと
感情の鮮やかさを知った。

でも 冬場にドアノブと掌の間に走る静電気のように
私達は互いに苛立ちを感じていた。
意地悪で仕掛けた枕投げ チャンネルの争奪戦、
それはじゃれ合いと名付けるにはあまりに哀しかった。

熱い火花を散らしていながら
あんなに熱かった視線を送ることは
滅多になくなった。

本当に愛しているなら
抱きしめてよ。

貴方は野球場の柵に靠れながら呟く。
汗だくの投手は四球を連発し、
窶れた顔でマウンドを降りる。

本当に愛しているから
抱きしめられないんだろ。

臍の緒が断たれた瞬間から
生命は自意識を押し付けられる。
羊皮紙を被った狼のように
誰かを愛することも忘れて。

 


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