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詩『鼻濁音』

溜息で曇る公衆電話の玻璃に薬指で似顔絵を描く、
受話器越しに響く鼻濁音がくるりと鼓膜を叩く。
風邪気味なんだね 無機質に唇を震わす台詞、
銅製硬貨で購入する五十六秒間の執行猶予。

闇の緞帳で覆われた公園の中で
異様に白く光る私的会話の部屋。

革靴でにじる公衆電話の砂礫に爪先で渦巻を描く、
受話器越しに響く鼻濁音がかちりと感情を敲く。
本当は泣いてたでしょ 無機質に喉を震わす台詞、
銅製硬貨が底をつき五十六秒間の静寂が幕を開ける。

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