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詩『浪費癖』

浴槽に肩まで浸かるとき水簾みたいに湯気を昇らせて溢れる、
自分の胴体と同じ体積の液体を棄てて私は存在している。
網膜に映る色彩が空気遠近法で白濁していく、
刹那の躊躇いが幻想を掻き乱して姿を消し去る。

ちょっと寄り道を何回も飽きることなく繰り返して
いのちを浪費する癖が抜けないまま生きている。

自転車で坂を下りるとき鉤爪みたいに弧を描いて引き裂ける、
自分の身体と同じ形状の気体の裂け目を私は潜り抜ける。
網膜に映る色彩が空気遠近法で白濁していく、
刹那の躊躇いが幻想を掻き乱して姿を消し去る。

あともういちどを何回も性懲りもなく繰り返して
いのちを浪費するくせに後悔だけは絶えない。

振り出しに戻るの升目ばかりのすごろくの如く続く夏の午後、
既読のまま返信することもない終止符を眺めるような静寂、
果物ナイフを研ぎながら誰かのことを想う蒸し暑い夏の午後、
いのちを浪費する癖が抜ける日には さようならの合図を。

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