マガジンのカバー画像

作品

83
運営しているクリエイター

2024年7月の記事一覧

詩『delightful』

星に触れたら火傷する掌は まだ暗闇のちいさな手袋に包まれているだけ 素肌じゃあまりにも刺激的だから隔たるくらいがちょうど良い 鼓動は眠たく唸る 明日は終日 時間浪費の予定だから会えないね。 抱き締める度胸などないからさ 間違いを馬鹿にし合っては 今日を無価値にしていく自慢話あるいは愚痴話ないし暗黙の了解で済む話。 皮肉交じりの片手間を惜しまず遂行中ただ実行中いわば自己中心的でも こまめに糖分補給をするように愛嬌は時々だだ漏らすように 原稿用紙の誤字脱字はたまた奇天烈な衍字

詩『頭痛薬』

側頭部に溜まる固定電話のコール音が血管を無駄に拡張させる 無理矢理に飲み干した酸味強めの活力は大して役には立たなくて 情報処理負荷が重くなる侃々諤々の会議に酔い潰れて沈む 頭痛薬も持ち合わせていないから適度に吐露する狂気激情。 黙ってくれりゃ業務ノルマくらい簡単に達成できるわ糞が 喉の奥には文節単位の検閲官が兼ね備わっていた舌先にすら届かない想い。 解決策くらい自分で考えろや善良なる聖人君子なら 効果は期待できそうもない倒置法が鋭く跳ね返って突き通す過去。 頭頂部に溜まる

詩『alternative』

ひきわり納豆を掻き混ぜるたび重くなる箸の動き 炊きたての米粒は柔らかく膨らみを湛え茶碗で湯気を立てる。 パソコン端末を起動し牛乳を片手に削除する迷惑メール 深夜帯の酔いどれの誤報くらいは残すのが流儀なのかな。 常識はどこでもオルタナティヴ 奇妙性はいつもトラディショナル 文明開化の音は舌打ち混じりの居眠り会議にも潜む。 良識はつねにピカレスク 悪癖はだれもがオーソドックス 新品の靴下の跡も誰かの名前で誤魔化してしまう。 鉄塔の骨組みをなぞる夕暮れ 田んぼは市松模様だね 連

詩『b-side aquamarine』

湿らせた両手の指先で擦る玻璃製の器の縁 電気水母のアウフヘーベン 躄蟹のアンチテーゼ 添え物程度の劇伴を奏でる誰のためでもなく。 不確かな両足の爪先で蹴飛ばす二酸化ケイ素の飛礫 藤壺のニヒリズム 鯨影のポリリズム 付属品程度の讃歌を口遊む誰に聞かせるでもなく。 飛び込めば泡に包まれる白む視界には海の冒頭 貝殻を押し当てた鼓膜の向こう寄せては返す記憶。 湿らせた両手の指先で擦る玻璃製の器の縁 電気水母のアウフヘーベン 躄蟹のアンチテーゼ 添え物程度の劇伴になりすます誰のた

詩『生憎』

温存していた体力の限りをはみ出して飛び出した少量の日焼け止め 血の気のない左掌を撃ち抜いて中身のなくなった容器を捨てる。 代替品で満ちた店頭の棚 必需品っていうのは性格の悪い言葉だ 生理用品の棚の前で肌を焼く切れかけの蛍光灯を見上げた。 生活を憎んだとしても太刀打ちできるほど頑丈じゃない心 河原の石を流れに投げ込んだ沈んだ波は荒ぶっては流れに負けた。 想像していた景色は疾うに限りをはみ出して破裂した少量のマヨネーズで 銀色で無機質なシンクを撃ち抜いて中身のなくなった容器を

詩『sugarfree violet』

瞳孔に宿る光がざわめく瞬間ばかりに囚われていたみたいだ 粘土細工に魂を分け与えることで偶像を創り出してきた若気の至りだ。 退屈で灼けた野生の断片にそう言い聞かせて宥めた。 満員電車に立ち籠めた防虫剤の匂いに踏み躙られたみたいだ 気泡が浮かぶ端末の表面と抹茶ラテで暇を持て余した痛みは忘れた。 蝉時雨で剔れた理性の胚軸を失わぬように抱き締めていた。 喉の奥まで痺れるような苦味を貴方は注いでくれた 糖質含有量はゼロのすみれ色の絶望を。 瞳孔に宿る光がざわめく瞬間ばかりに囚われ

詩『存在』

Error 404 not found  when i came back to that place you could not be found  there was only a white scenery had you been there until that time however you could not stand anymore i was too late because of my foolishness please give me one m

連作の最後に『逢魔が時』

酉の刻 サイレン。 鉄塔 烏の群れ。 夕陽 自転車の前照灯。 点滅信号 監視カメラ。 松葉杖 緑雲。 欺瞞 猜疑心。 街灯 踏切。 素因数分解。 逢魔の世界で影を見る。 さよなら。

連作詩⑤『鹿鳴の宴』

毎朝 見慣れた景色から日に日に消えていく 電子辞書 参考書の束あとは寝台の下に隠した百合漫画。 端末に溜まっていた哲学めいた贈答も塵箱にぽいっして。 雨垂れで塗料が剥げ落ちた骨董店の前で 舐める氷菓 物語の悪戯それに選択洗剤の詰替え用。 端末が鳴いて届いた皮肉めいた独り言も既読スルーして。 虚勢を張って伸ばした角も切り落とす時だ 別離は世の常だから復た巡り逢えたなら。 毎朝 見慣れた景色から日に日に消えていく 電子辞書 参考書の束または寝台の下に隠した百合漫画。 端末に

連作詩④余桃の罪

深夜に帰宅後ひとりで温めた晩御飯は薄味で物足りない 不満を羅列するのだけ得意で貴方の陰で憩う祝日の夕暮れ時。 零れ落ちた果実を齧って片付けもせず眠る毎日に。 早朝の出勤前シャツが皺くちゃで見るに耐えない 鎮痛剤で誤魔化した愛情の搾取が交感神経を刺激する朝焼け時。 自己嫌悪に気付いた時には果実は腐敗しきっていた。 喉元に溜め込んでいた ごめんねは 欺瞞に過ぎないと自覚していた。 深夜に帰宅後ひとりで温めた晩御飯は薄味で物足りない 言い訳を羅列するのだけ得意で貴方の陰で溜飲

連作詩③『梨園の弟子』

舞台裏で照明のスイッチを握り締めて貴方を見送る 私達は暗黙の了解で刻まれた台本を開いて一字一句澱みなく 奥歯にこびり付いた青海苔を隠しながら読み続ける。 舞台袖の代役の背中を無責任に押し出して見送る 私達は不可避の宿命が綴られた脚本を棄てて一挙手一投足迷いだらけで 棘の如く傷む刺青を胸に彫り出したまま駆け出していく。 月並みな演技で覆われた予定調和の世界に 即興演奏の隕石を投げ込む汚れ役くらいがお似合いだ。 舞台裏で照明のスイッチを握り締めて貴方を見送る 私達は暗黙の了

連作詩②『盃中の蛇影』

疑心暗鬼に食い潰された臓器が不調をきたして眠りに就くのもひと苦労だ 盃の水面に揺れる弦音は網膜に波打つ白鷺の彫刻を穿つだけ。 飲みかけを渡されて複数種の二重螺旋が絡まるカフェラテのボトルと 妙に神経質な指先は鍵盤を弾く振りでもしていないと落ち着いてくれない。 頭蓋骨に張り巡らされた血管を鋭い速度で駆け抜ける蛇を 飼い慣らす術もなく暴走していく跳梁跋扈していく体躯。 葉書を彩る郵便切手みたいに隅の方で蹲っていなきゃ後ろ指が恐けりゃ 盃の水面に揺れる弦音は網膜に波打つ鵲の彫刻

連作詩①『亡羊の嘆』

布団を捲っても蛻の殻で白髪が数本 卓上に並べられていた 枝分かれした闇路に溶けた貴方を探すため部屋を漁る。 玉石混交の格言集に惑わされ根拠もなく道の梢を目指した 錆びた鎖で繋ぎ留めていただけの羊雲は八つ裂きになった。 食欲が減退していたとか耳にしたようなしていないような 暖かく抱き締めてくれた貴方の腕に嚙みついていたような。 扉を開いても伽藍堂で口紅が数本 鏡台に並べられていた 破砕された記憶に揺れる貴方を探すため部屋を漁る。 信憑性のない都市伝説に掻き立てられ意味もなく

詩『ludens』

朝の新聞紙が投函された音をサンプラーに投与して 底面が茶色くなった卵焼きを腹いせに弁当に詰めて、 財布に詰め込んだ領収書を丸めてお手玉にして 信号機が垂れ流す青い音で暗夜を舞い踊って。 言わば浮き世は遊戯場も同然、 遊び疲れて斃れる日まで踊らにゃ損々。 緩衝材を指先でぷちぷちと潰し尽くして 猛暑で渇いた紫陽花の花を写真機で保存して、 文字化け状態の詩を解読するふりをして 配られた手札を投げ出して勝負も忘れて。