【思ひ】
【思ひ】
色々思う所のある方が多いようで。
冬がようやく終わりを迎え、春が目覚め始める。
春といううわついた気分に中毒られて、心狂わす人も多いかと思う。
花が咲き誇り、動物達も目を覚まし、山や海が動きだす。
街角にある桜の木
あれはもう長いことこの街にある。樹齢何百年の代物だと思う。
得てして、そういった長老木には不思議な体験談があるものだ。
しかしながら、そういった体験に私はあったことがない。
ないのでなんとも言えないが、不思議な感じなんだろうなぁ。
不思議な感じとは何か…
きっとうわついた己の心が作り出す幻なのかもしれない。幻か真か…それはただただ己のみぞ知る所。
長老木は今も静かに風に揺らめいてざわついている。
木の根本にふと目をやると、一組の老夫婦が木を眺めていた。
何か、思い出の木なのか、どうかは知るよしもなく、老夫婦は木を眺めていた。
そこに幼稚園くらい一人の少年が老夫婦に声をかける。
お孫さんなのだろうか?一言、二言言葉を交した少年と老夫婦は木に何か言葉をかけ、手を繋いでその場を去っていった。
私はその木が気になり、車を降りて、根本まで向かって歩いて行った。
木には特に変わった様子はなく、凛としてそこにそびえ立っていた。その様子に何かを感じ、私は木に心の中で声をかけた。
『長生きしなよ』
その言葉に反応したのか、木は急にざわざわと葉を揺らし、答えてくれたかのようだった。
車に戻ると一通のメールが届いていた。
それは何てことのない友人からのメール。お花見の計画のメールだった。
メールを返し、その場を去る間際、ふと桜の木に目をやると、老夫婦と少年がもどってきていた。
すると、少年は一人別の方に走り去って行った。
その様子をみた老夫婦は笑顔で少年を見送り、また木を眺めていた。
しばらく私も眺めていた。
程なくして、老夫婦はまた木に言葉をかけて去ろうとしていた。
私も仕事に戻らなければと思い、車を出そうとした瞬間、、、
『ありがとう』
と、言葉が聞こえた。
優しい声だった。
木の方を見てみたら、老夫婦がこちらを向いて手を降っていた。
一つお辞儀をし、その場を去った。
車を泊めていた方角からは見えなかったが、その木に隠れて、一回り小さい木と、その間にはえはじめたばかりの木が植わっていた。
不思議な感じがした。
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