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手相観のおばさまにしびれた

私は占いとかその手のものは全く信じていないが、人生でたった1度だけ、よく当たる手相観さんに出会ったことがある。

まだ20代のころの話。高校からの親友カナちゃんと温浴施設に遊びにいったら、手相の簡易スペースがあった。カナちゃんは彼氏と別れたばかりで「ちょっと見てもらう」と座り込んだ。

料金は1000円だった。相場は知らないけれど、さすがに素人くさくないか? 

こんなしょーもないもんにお金使ってと、冷やかし半分、このいかさまおばはん何いうんやろ?と、カナちゃんの隣の丸椅子に腰かけた。


「結婚は5年以内。あ~、あんたは貧乏の相が出てるね」

貧乏の相と聞いた瞬間、こやつタダ者じゃないと驚愕した。なぜなら高校時代から、カナちゃんの口癖は「そんなカネない」だったから。


カナちゃんはまれにみる働き者だが、いかんせん勤め先が薄給だった。加えて都内で一人暮らしの身で奨学金も返していたから、万年金欠だった。


「あんたはお金に苦労するから、今のうちに書道とかお華とか人に教えられるような技術を磨いて、年を取ったら自宅で教室をやりなさい」

私は子どものころから新聞の人生相談の回答を読むのが趣味なのだが、この手相観のおばさま(尊敬したのでおばはんから格上げ)のアドバイスにはしびれまくった。具体的かつ建設的。つまり理想的である


プロや!プロ中のプロや!と、おのれの両手を差し出した


右手を見て、左手を見て、左右の手を裏返して、また戻して。しばし考えたあとに「あんたは晩婚やね。結婚線は薄くてほとんど見えないけど、子どもの相が出てるから、結婚はするとおもう」



翌日は、仕事で私の職場近くに来た兄と、久々に夕食の約束をしていた。中華を食べながら「昨日さ、生まれて初めて手相観てもらったんだけど私、晩婚なんだって」と報告した。


「あほ。おまえもう27なんやから、占ってもらうまでもなく晩婚やろ。俺でも言えるわ」


まったく、つくづくつまらん奴じゃ


さてその後はというと…。
カナちゃんは占いからちょうど5年目に職場の同僚と結婚、妊娠判明とともに退職し、男の子2人のママになった。専業主婦として子育てを満喫した後、今は息子たちの学費のためにせっせとパートをしている。金持ちになったという報告はまだない。


35年来の友としては、もう還暦まで10年を切ったのに、彼女がいまだ習字や華道のお稽古を始めていないのが気になるところ。「カナちゃんそろそろやで」と喉元までお節介が出かかるが、余計なことは言わないのが、長く続く友情の秘訣とおもい黙っている。

一方、私はシングルのまま母となった。結婚線は見えないが子どもの相とはこのことだったのだ。


ただ内緒だけど、実は晩婚の線にもちょっと期待している。結婚願望は全くないけれど、あのおばさまは「結婚はすると思う」と言ったのだ。結婚線がちょっとは見えたのか、ほんとうは全く見えなかったのに、若い娘には酷だとあのように言ってくれたのか、そこのところがすごーく気になっているのだ。おのれの人生をかけておばさまの真意を確かめたい。



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