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誰かの宝物かもしれない

自分が無駄に、無駄な記憶力がよいと、はっきり認識したのは大人になってから。

幼い頃から記憶力が良いとはよく言われたが、子どもはみんなよく覚えているから、それほど目立たなかった。しかし、この年になると驚異的と言われる。

ただ、この記憶力が発揮されるのは、極めて狭い範囲に限られる。お勉強系には全く役立たず、アタマを使わなくていいもの、要は下世話で、くだらない、人にまつわる話だけなのだ。たとえば、きょうだい構成や結婚の馴れ初めなんてのは一度耳にしてしまうと、それが友達本人ではなく、会ったこともない友達の弟のエピソードでも、まず忘れない。

別にそんなものに興味があるわけではないのに。脳ってほんとに不思議だ。


週末に高校時代の友人と3人で旅行をした。旅館でお布団を並べて寝っ転がりながら、肴になったのは、マサコちゃんの長男の彼女の話だった。

マサコちゃんは大学を卒業した年に同級生と結婚したから、長男はもう社会人。日本を代表する企業の一つに勤めていて、数年以内に海外転勤が必須だという。

学生時代からの彼女も、これまた超有名企業に勤めているが、彼女は東京から異動することはないそう。

「息子に転勤がないような仕事に転職しろってうるさいのよ。失礼じゃない?人の職業に口挟むなんて。そんなに息子がいいなら、自分が転職したらいいじゃない」と温和なマサコちゃんが珍しくプリプリ怒っている。

「息子もせっかく希望の会社に入ったのに、転職しようかな、なんて言ってさ。バカじゃないのって叱ったわよ。とにかく、なにかと息子を尻にしいてるように見えるのよ。結婚前からこんなじゃ、先が思いやられるわ」

うふふ。25年前はお姑さんが「マサコさんは息子を尻にしいている」と言ったもんだから、マサコちゃんは激怒していたのに同じセリフを言っている。

「何より気に入らないのは、息子を完全にロックオンしているとこなのよ。クリスマスまでにプロポーズしろとか言うんだって。そんな期限なんて区切る?」

そういうマサコちゃんとこは、一家総出で大学生だった旦那さんを囲いこんだ(笑)

二人が初めて泊まりがけで旅行した日、マサコちゃんのご両親は事前に許可していたにもかかわらず、帰ってきたら、たいそう立腹していて、旦那君を呼びつけた。

正座して「もちろんマサコさんとは結婚を前提に」と言い切った二十歳そこそこの旦那君に、マサコちゃんの父親は「見どころのある好青年だ」と感激し、酒盛りが始まったのである。

二人の結婚後、新居に遊びに行ったら、旦那君が「マサコの実家に囲い込まれた」と笑っていた。隣に座っていたマサコちゃんが「うちはそういう家庭なんだから、仕方ないじゃない」と旦那君の膝を叩いた。二人とも初々しかった。

私はお父さんと旦那君が酒盛りした話を、マサコちゃんから聞いたから覚えているのだが、当の本人は「そーだった!そんなことあったねぇ」と。

ついでに「マサコちゃんも『義母が息子を尻に敷いてると失礼なことをという』って怒ってたよ」と笑ったら、

ひゃー、同じことしてる!と驚いていた。

きっと25年前は、義母が友達と私のことを「気に入らない、気に入らない」とやってたんだろうね。そんな義母と今は、実の母より仲良くしてるなんて笑える、と。

巡り巡るんだねー。私たちもおばさんになったねぇと3人で感慨に耽った。


私は自分の結婚話では、相手方から猛反対され、数えるほどしか会ったことがないのに、ものすごく人格否定されたクチなのだけど、この年になると、きっとそこに深い意味はなかったんだろうなと、おもう。


姑目線だと、気に入らないかもしれないけれど、職場の新入社員としてなら、なかなか見どころがある、なーんて思っちゃったりするのかもしれない。或いはお隣さんだったら、機嫌よく付き合ってるのかも。要は巡り合わせなのだろう。

うちの子は女の子なので、未来のお姑さんには、あなたが気に食わないという子も、私たち家族にとっては大事に育てた、大切な宝物なのよ、だからお手柔らかにね、と願うのだ。


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