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安定のドケチ道タナカさん


前の職場で上司だったタナカさんから、ランチのご招待を受けた。

彼女には先月、頼まれごとをした。その御礼だという。

ドケチで名を馳せている人だったので、指定された店の所在地をみて、「おー、頑張ったやん」と甚だ失礼な感想を持った。

というのも、このタナカさん、昔、彼女の右腕となって働いてくれた派遣のセタさんが辞める際に、「言葉に尽くせないほど感謝してるの。ぜひ個人的に送別会をさせて」と連れて行った先が1人平均単価900円也のカレー屋だったのだ。

あなたも同席してと声がかかり、ノコノコとついて行ったわけだが、たどり着いたのは店というより小屋だった。

テクテクと何ブロックも歩いた挙句、橋を渡り出したときに、なぜ川を超える、と不安ではあった。トンネル抜けるとそこは雪国だったじゃないけれど、橋を渡ったらそこは別世界なのだ。案の定、店を前にセタさんは凍りついていた。

確かに人を歩かせるだけあって美味しかった。だけど、散々お世話になった人に、50になろうという役職者が折りたたみの簡易テーブル6席しかない店の900円カレーはないだろう。

そのままクライアント先に行くと言ったタナカさんと店の前で別れ、2人きりになるとセタさんは泣き出した。

「すみません泣くなんて。タナカさんにとって私って所詮、この程度の価値しかない人間なんだなと情けなくて。彼女はとても気配りができる方だから、その分こたえます」

泣かないで。タナカさんは真性のドケチなの。気がきくのは会社の経費が切れるときだけ。前にうちの娘がタナカさんの趣味の演劇だかで子どもが必要と1日借り出されたときのお礼は、ペットボトルのお茶1本。500じゃなくて350のほうの。あっあと、ヤマザキのみたらし団子が一本だったかな。とにかく、おにぎりを持たせてなかったら飢え死にするとこでした。

セタさんはうふふ、そのお茶、伊藤園でした?きっと私が来客用に発注したやつを持ち出したんだわ、と泣き笑いした。私は事前にどこの店か確認しなくてごめんね、と謝った。

似たような話は枚挙にいとまがない。

そんなこんなで、今回のご招待はタナカさんにしては頑張ったなと、30度超えの炎天下、指定の店に向かったわけである。

一番安いコースにしたら、遠慮するなと一つ上のを勧めてくれる。セタさんにこの成長ぶりを見せたいよ、なんて感心していたら…。

食後にテーブルに載せられたチェックを確認して、「ハナちゃんは3000円でいいわよ」と、安定のタナカさんだった。

そーいうのは「お礼にご招待したい」とは言わんのである。遠慮せずに注文しろとはなんだ。日本語の使い方間違っとるやろ、と。私がボランティアで作ってあげた資料、外部に頼んだら諭吉、何枚飛ぶねん。あっもう諭吉じゃないのか。なんだっけ栄一か?

愛嬌があって憎めない人なのだけど、これじゃあセタさんじゃないけど、バカにしてると縁を切る人だっているだろう、と。

あー、それにしてもホント私も学習しない。タナカさんがドケチだなんて百も承知じゃないか。なぜご馳走してくれると思ったのか。甘すぎる!こういうとこだぞハナコ。これは己の判断ミスであり、サバンナなら一瞬で命を落としていたかもしれん。あーバカバカ!なーんて反省しながら帰ってきた。

家で、体調を崩している母に話したら、コロコロと楽しそうに笑うから、まぁいいか、と思えたけど。

あーそれにしても(2回目)。タナカさんも、ご招待させてと呼び出した相手から3000円を取るなら、最初から自分が負担した2500円で収まる店に連れて行けばいいだけなのに。このご時世、さすがにもう900円は厳しいとおもうけれど、いくら東京のど真ん中とはいえ、なにかしら気の利いたものもあるだろう。お茶でもいいわけだし。

ナゾだ。

で、こんなタナカさんが出世してる会社も超ナゾだ。


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