中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】2
過去に書き上げた中編純愛小説です。
グラウンドに沿って舗装されて間もないアスファルトの歩行者専用道路の両脇の道沿いには、赤褐色のレンガが三段積みで列をなしている。
桜の木の側には芝生が植え込まれ、先端が綺麗に手入れされている。
おそらくだが毎日、誰かがここへやって来ては、草刈り専用の鎌なりを使って整えているに違いない。
涼はさりげなくその光景を想い浮かべては何時間費やせば、これほどまでに美しく刈り取れるのか、ひとり、妄想を抱きしめていた。
アスファルトを蹴るように、コツコツとハイヒールの擦れる音が次第に増して近づいてくる。
音の方向へと顔を反転させた涼の視線の先には、かなりの至近距離に達していた愛の姿があった。
大きな瞳、まだ慣れていない印象を受ける化粧、ストレートでロングの黒い髪がとても上品さを醸し出している。
涼は内心、思った。
色白で綺麗な素肌をけしてお世辞にも上手とはいえない化粧で隠すなんてもったいなさすぎる。
この日、ふたりは初めて挨拶以外の言葉を交わす。
まだ春だというのに真夏を思わせる暑さが時に風に運ばれ、桜の花びらたちも例年とは違った様子に面を喰らっているに違いない。
陽光がふたりを照らす。
空を舞い美しい鳴き声を揃えて発する小鳥の群れたち。
ぼんやりといつしか愛の存在を忘れ、空を舞う名さえ知らない小鳥たちに夢中になっていた。
『前から聞きたかったのだけど、桜が好きなの? いつも眺めているよね』
一瞬、戸惑いを隠せぬ涼ではあったが、無意識に口は開き、勝手に言葉を返していた。
『あぁ、桜は好きだよ。とてもね』
しばらくの沈黙を風がさらっていく。
雲の切れ間から強い陽射しが射し込み周囲一面を照らし、再度、ふたりの顔を鮮やかに映し出す。
『挨拶以外、初めて話したね。僕たち』
少し微笑んでから彼女は答えた。
『知的で物静かなあなたを見ているとつい話しがしたくなったの』
涼は照れ隠し出来ぬまま、おそらく知っているに決まっているであろう自分自身の名前を丁寧に告げた。
『僕は朝倉涼、光栄かな。あなたのような綺麗な方に話しかけてもらえて』
彼女は微笑むのが癖に違いない。
優しそうな微笑みが涼の心を溶かしていく。
『私は風間愛、実は私も桜が好きなんだ』
そう答えると同時に彼女もまた、涼がすでに自分自身の名前など知っているのだろうと認識していた。
次第に打ち解けていくふたり。
時間の経過さえも忘れて会話が弾む。
いつしか陽は翳りを見せ始め、赤褐色に染まった空が夕焼けを連れてグラウンドを包んでいく。
『初めて話しをしたなんて思えないほど、意気投合したよな』
『ほんと、そうだね』
『とても楽しかったよ。これからも宜しく』
『私も楽しかった。友達として仲良くしていきましょう』
そう言葉を残して彼女は足早にその場を離れ、駆け足で去っていった。