(小説)ようこそ、アントレ部へ~第五話~

 あれからアキ君と別れた僕は何とかこれから一年間お世話になる一組の教室を見つけ出し、僕の名前プレートが置かれた席に座り、一人頭を抱えていた。

 僕が頭を抱えていた理由、それはもちろん先程のアキ君のやり取りに他ならない。

 昔突然離れ離れになってしまった幼馴染との再会だけでも僕の十数年の人生においてかなりのビックイベントだったのに、男の子だと思っていた幼馴染が実は女の子で、しかも先輩で、滅茶苦茶タイプな美少女になっていた。これなんてラノベってくらいのテンプレ展開をまさか自分が体験するとは。

 その上、訳の分からない部に勝手に入部させられていたなんて。———まあ男なんて馬鹿な生き物で、可愛い女の子のお願いは断れなかったんだけど。
 
 それでも、こんな言い方したらアキ君は怒るかもしれないかもだけど、人を振り回してもお構いなしに自分のやりたいことをやる傍若無人さは昔と同じアキ君だと感じ、少し嬉しくなった。———ただ、僕は決して被虐性愛の持ち主というわけではないのだけれど、あの時アキ君に詰め寄られていた時に、嬉しさとは別に内心ドキドキしてしまっていたことは内緒だ。

 まあともかく、高校生初日、しかも入学式が始まる前に色々あり過ぎた。現にこの通り、これまでの出来事を消化できずに頭を抱えているのだから。特にアキ君に一目・・・。

「ああぁ!」

 僕は普段なら絶対に発することがないだろう奇声を上げ、頭をかきむしる。何と言うか、罪悪感が物凄い。いや、この感情が罪悪感なのか自分でもよく分からないのだけれど。

 幼馴染、いや当時は親友とさえ思っていた相手にあんな感情を向けてしまったなんて。これからどんな風にアキ君と付き合っていけばいいんだ。それに、これから彼女に対して「アキ君」なんて呼び続けていいのだろうか。いや、現時点で自分でも違和感が半端ない。

 じゃあ何て呼ぶ。アキラちゃん?いやいやそれはおかしいだろう。それじゃあアキラ先輩?いや、そもそも名前呼びでいいのか?

 いやいや、その前にアキ君の苗字って何だったっけ?ずっとアキ君呼びだったから、思い出せない。僕、親友だと思っていた奴のフルネームも言えないのか。最低じゃないか。

 そんな風に僕が悶々としていた時、ふと何やら周りがひそひそと話をしているのが耳に入った。それに何やら視線を感じる。そこで僕ははっとなり、周囲を見渡した。

 途端に感じていた視線が無くなる。このことから導き出される答えは一つしかないだろう。

 僕は今注目を浴びている。しかし、それは残念なことに悪い意味でだ。
冷静に考えてみよう。これから一年間、共に学ぶ学友との初体面かつ、高校デビューとなる初ホームルームで、一人頭を抱え、突如奇声をあげるクラスメイトがいたら周囲の人はどう感じるだろう。

 もちろん、それは言うまでもなく、変な奴、いやヤバイ奴である。僕だってそんな奴がいたらそう思う。

 そして、何を隠そうそのヤバイ奴がこの僕なのだ。———どうやら、僕は高校デビューに失敗したかもしれない。

 僕は今は感じない視線から逃げるように、机に顔を突っ伏した。また一つ、僕の悩みの種が増えてしまった。

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