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デレラの読書録:千種創一『砂丘律』


『砂丘律』
千種創一,2022年,ちくま文庫


歌集を初めて読んだ。

作者と現実の境界面に現れる31文字の言葉。

作者と現実が別々にあるのではなく、もしかしたら、言葉によって後から作者と現実が分離するのかもしれない。

ひとつのものが、言葉によって、ふたつに分離する。

作者と現実に。

作者と現実は元々はひとつだったけれど、今はふたつに分かれている。

作者と現実のあいだに境界面がつくられるようにして。


境界面で言葉が揺れる。

その揺れは、心の揺れなのではないだろうか。

現実にリアリティを感じられなくなってしまった心の揺れ、あるいは現実の不安定さ。

現実にリアリティが感じられないというのは、いささか語義矛盾かもしれない。

なぜなら、本来はリアリティがあることを「現実」と呼ぶからだ。

では、現実にリアリティが感じられない、とはどういうことか。

わたしには「現実が崩れる、現実が揺れる、現実が分からなくなる」ということ感覚が体感的、実感的にある。

それはまるで砂でできた城が崩れていくような感覚。


砂丘律とは、現実が揺れ動き、崩れ、現実がわからなくなり置いてきぼりにされるときに、「わたし」という実存までもが崩れてしまうことを防ぐための、唯一の方法なのかもしれない。

砂丘律というリズムに、韻律に身をまかせるということ。

日本から中東へ渡るひとりの人間の紀行文でありながら、実存の本質に触れる一連の歌。

それは、いまだに崩れそうなわたしの現実と実存を、31文字に封じ込めてくれるような、儚い賭け。

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