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謎のテーリヒェン『バトラコミュオマキア』

 古いカセットテープ群から「テーリヘン バトラコミュオ・マキアー」とだけ書かれた謎物件が見つかった。たぶん中学生時代の自分の字だが、暗号か呪文のようにしか思えず、いったい何を言っているのかさっぱりわからない。ネット検索にも難儀したが、ナカグロと音引きナシの「バトラコミュオマキア」と入れると、蛙鼠合戦というウィキペディアのページが出てくる。まあ、読んでみてちょ。「イリアス」のパロディらしいが、あらすじが笑えます。蛙国と鼠国の戦争をおさめるために蟹軍投入って、何やってんだゼウスは。

 一方の「テーリヘン」は、フルトベングラーやカラヤン時代のベルリンフィルのティンパニ奏者で作曲家でもあったヴェルナー・テーリヒェンのことらしいとわかった。『フルトヴェングラーかカラヤンか』という著書があり、川口マーン惠美『証言・フルトヴェングラーかカラヤンか』(新潮選書)にも登場する人物である。

 そのテーリヒェンが書いた二人のソロティンパニ奏者のためのコンチェルトが、「バトラコミュオマキア」という曲のようだ。二人のティンパニストが、それぞれ蛙軍と鼠軍の役なのかもしれない。聴いてもどこでゼウスが蟹軍を投入したのかわからなくて残念だったが、なかなか面白い現代音楽だった。はじめて聴いたような気がするので、中学生の私は録音はしたものの「ナンジャコリャ」ってなって放り出したのかもしれない。

 ただし、どうやらタイマー録画ではなく、FM放送を聴きながら録音しているので、少なくともそのとき一回は聴いたんだろう。なぜそれがわかるかというと、曲前後のアナウンスが入っておらず、終演後の聴衆の拍手が急速にフェイドアウトしているからだ。当時は「曲だけを録る」ことが大事だったので、始まりと終わりは精神を集中して機械を操作していた。ケナゲである。

 だがそのおかげで、テープに書かれた言葉以外、何の情報もない。いつ、誰が、どこで演奏した「バトラコミュオマキア」なのかまったくわからないのである。でも、まあ、これのおかげで「蛙鼠合戦」の話を知ることができた(いつかどこかで仕事で使えるかもしれない)ので、45年ぐらい前の自分に感謝したい。どうもありがとう、おれ。

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