私もそのようにします

「目に入れても痛くない」とはまさにこの事だろう。いや、むしろ目薬。情愛、慈愛に満ち満ちて行く身体はどこか浮わついていて、「私」を操縦しているのは実は私じゃないんじゃないだろうかという錯覚に陥っている。
錯覚?
勘繰る。先週先々週の自身をもう鮮明に思い出せなくなってきた。明確に覚えている、と感じている事実(だろう)の大半はカメラロールを遡ってスクリーン越しに見た光景だけな気がする。寝ている間に乗っ取られ、幸せを享受している私は実は私ではなかったりしないだろうか。しないんだろうけど。
思い返せば色々な物を人生の道半ばに溢してきたが、それと同じくらいの幸を両手いっぱいに握りしめることができている。おかげさまです。溢れんばかりにある"これ"を落とさないように目一杯力を込めて、震える腕で抱き締めている。だが触れている感覚はもはや無くなりつつある。やっぱり疲れるもんなんですね。私は割った食器を隠してしまうから、きっとこれを落としても知らん振りをするんだろうな。そんなカッコワルイのが俺であってほしくないから、私は私が私じゃないことを、なくなることを願っていた。生憎靴下の中にそれは入っていなかったから、飽きもせず2002年8月11日から2023年12月29日現在まで私は私のままでいる。壊してしまったと後悔をしたくないから、この続きは誰かに代わって貰っても良い。あぁいつかまた失ってしまうのだろうか。嫌。だが溢さぬようにと硬直した身体では先に進むこともできず、色づいた極彩色の世界が照り輝いて目はチカチカして、甘味は脂のように口に纏わりつく、それでーー。
あなたの手が私を支えた。
震えていた腕には跡だけが残る。電灯は消したから、チカチカした両の目には影だけが映る。会話も電子キャッチボール、実存はしない。
それでもあなたの手は私を支えている。
ステレオタイプな幸せかもしれないけれど、今はこの浴槽にどっぷりと肩まで浸かっていたい。
Have fun!
私もそのようにします。


要約


不安だけど幸せです。

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