【土工事・山留工事】
前回は「地盤調査」についてお話しました。
設計者は設計図書作成の参考にします。
施工者は「地盤調査」の結果を見て、仮設計画を立てます。
概要
今回は「 土工事・山留工事」について説明します。
ここで引っかかるポイントは、工法の見分け方や、掘削底面の破壊現象ではないでしょうか。
それでは「土工事・山留工事」の計画から順番にお話します。
山留計画とは
まずは、敷地に対して建物がどのような配置になるのかを確認します。
工業団地の中に建てる工場とかでしたら、建物の周囲に余裕があるでしょう。
街中に建てるマンションでしたら、敷地ギリギリで基礎を掘ったらダンプも寄り付けないかもしれません。
こういった周辺状況を考慮しながら【A 山留工法】を選択します。
敷地いっぱいに建物が配置されるような場合、掘削した後も敷地内に工事車両を入れるために「作業構台」を架けます。
( ↑ 作業構台 出典:(株)アストリード)
当然「構台」が宙に浮くわけはないので、これを支える支持杭も必要になります。
また、【B 揚水工法】(地下水や雨水をどのように排出するのか)も計画します。
地下水位が高い時は、全体に水位を下げる必要があるかも知れないし、たとえ水位が低いとしても雨が降れば必ず水がたまるので、どうやって水を排出するのかは重要です。
【C 地盤改良】を指定される事もあります。
これは、施工者側で仮設的に必要になる場合と、基礎の支持地盤として設計側から指示される場合があります。
現状の地盤が十分に固くてその上に直接基礎を構築できれば一番良いのですが、緩い地盤であったり、支持層が深かったりすると地盤改良が必要になります。
また、液状化の恐れがあるとか、地下水が噴出してくる可能性があるとか、地盤条件によっても地盤改良をする必要が生じます。
お待ちかねの【D 破壊現象】については最後に説明します。
では、順を追って説明していきます。
【A 山留め工法】
1)オープンカット工法
・敷地に余裕があって、安定した法面(のりめん:斜面のこと)の角度(内部摩擦角以内)を確保できる時に採用します。
・山留めをしなくていい(要は土を斜めにするだけ)ので安くできます。
( ↑ オープンカット工法 出典:井澤式建築士試験比較暗記法)
2)アイランド工法
・掘削面が広くて、掘削深さが浅い時に採用を検討します。
・中央を先に掘って、躯体を先行して造る事で、切ばりが短くて済みます。(中央の躯体を島に見立ててアイランド工法)
・工程が増えるので時間がかかります。
( ↑ アイランド工法 出典:井澤式建築士試験比較暗記法)
3)親杭横矢板工法
・地下水位が基礎工事に影響を与えない程度に低い(深い)ときに採用します。
・比較的安価で一般的
・親杭:鉄骨のH鋼、横矢板:20cm巾くらいの木の板で親杭どうしの間に入れる
( ↑ 親杭横矢板工法)
4)ソイルセメント柱列壁工法(SMW工法)
・地下水位が高くて、止水しないと到底仕事にならない時に採用します。
・山留めの欲しいラインに合わせて孔を掘ってソイルセメント(コンクリートみたいなもの)を打ち込みます。芯材にH鋼を入れます。掘削するとコンクリートの壁に囲まれたみたいになるので、水が入ってきません。
( ↑ SMW工法 出典:名西建材(株))
5)鋼矢板工法(シートパイル)
・親杭横矢板工法とソイルセメント柱列壁工法の中間の条件くらいの時に採用します。
・ウニャウニャって曲がった鉄板を順番に土に挿し込んでいきます。この時、隣の鉄板にひっかけるような感じになるので、つながった壁のようになって強度が増します。
・完全に止水はできませんが、親杭横矢板よりは止水性が高いので、釜場工法で水を揚げればなんとか作業できます。
( ↑ 鋼矢板工法)
6)逆打ち(さかうち)工法
・地下に向かってビルを建てるようなものです。
・地上と地下の同時進行ができるので、地下階数が多いとか地下が広いとかの場合に有利です。
・山留めがそのまま躯体になるので、軟弱地盤でも問題なく施工できます。
切ばりとは
ここで「切ばり」についてお話します。
山留めって基本的に垂直ですね。裏側には土があって、掘削側は当然何もない。
ですから、山留めの根入れと鋼材なり連続壁などの剛性で支えられるわけです。
基礎を深く掘りたい時には鋼材などの強度が耐えられない(土圧に負けて折れてしまう)ので、それを補助するのが「切ばり」です。
まず「腹起し」という水平材を山留め面に流します。
これはブラケットを山留め面に溶接してその上に乗せるのが一般的です。
次に山留め面に直角に「切ばり」を架けます。
「東西」「南北」など、対面の山留めと支え合う形で設置します。
この時、対面が遠すぎる時には途中に「切ばり支柱(棚杭)」を打設しておいて、それで受けてやります。
また「切ばり」のジョイント(継手)は切梁どうしの交差部の近くに設けます。
ちなみに腹起しの継手は応力の小さい所に設けます。
切ばりにせよ腹起しにせよ、継手は構造的に弱点になるので、外力があまり加わらない所に持っていきます。
( ↑ 切梁 出典:SKK施工管理研究所)
【B 揚水工法】
1)釜場工法
・最も簡便な方法です。
・掘削底の一部に穴(これを釜場って言います)を掘ってそこに水がたまるようにして、水中ポンプで汲み上げます。(水は低い所に向かって流れますからね)
・表面の水しか排出できません。
( ↑ 釜場工法 出典:土留.com)
2)ディープウェル工法
・井戸みたいな孔を掘って、そこに透水管をセットし、内部にゴツイ水中ポンプを突っ込んで水を揚げます。
・ソイルセメント連続地中壁などと組み合わせることで、掘削範囲の水位を下げることができます。
・ちなみにどれくらい水位を下げられているのかを調べるためには、ディープウェルの穴とは別に「観測井戸」と呼ばれる別の穴が必要なので覚えておきましょう。
3)ウェルポイント工法
・ディープウェルよりも浅いところの水を排出します。
・掘削面近くの水位を下げることができるので「ボイリング」防止に効果的です。
見分け方のポイント(1)
「ディープウェル」と
「ウェルポイント」ってどっちがどっちか分からなくなりませんか?
「ディープウェル」は深っか~い穴を掘って、ゴッツイ水中ポンプで集中的に水を汲み上げます。
( ↑ ディープウェル工法 出典:協立基礎(株))
一方「ウェルポイント」は、ポイントって言うわりには、1本じゃなくて何本も穴を掘ってまとめて真空にして水を吸い上げます。
( ↑ ウェルポイント工法 出典:(株)永岡ウェル工業所)
【C 地盤改良】
1)サンドドレーン工法
・軟弱な粘性土の地盤改良に適しています。
・粘性土は水が抜けにくい。そこで、砂の柱を人工的に造り出してから、上部に荷重をかけることで、粘性土の中の水分を砂の柱を通して排出させます。
こうすると、圧密現象を強制的に生じさせることができるので,構造物の建設後に発生する不同沈下を抑制することができます。
( ↑ サンドドレーン工法 出典:NCB ドレーン)
2)サンドコンパクションパイル工法
・鉛直振動を利用して地盤内に締固め杭を造成する工法
・バイブロフローテーション工法もほぼおんなじと考えて良いようです。
見分け方のポイント(2)
「サンドドレーン(SD)」と
「サンドコンパクション(SCP)」の見分け方について
(SD)は緩い「粘土」
(SCP)は液状化しそうな「砂質土」
(SD)は水を抜いて粘土を圧縮するのが目的
(SCP)は砂の柱を構築して、それで支えるのが目的
圧密とは?
ところで『圧密』ってなんやねん!?って思ってます?
簡単に言うと「それ以上つぶれないほどに圧縮しまくられている状態」です。
『圧密』の何が良いかって、それ以上つぶれないから建物の荷重がかかっても安定して支えられる事です。
粘土質の土は水を通しにくいですね。
と言うことは、水が抜けにくいという事です。
水が抜けにくいと、いくら圧縮しようとしても内部の水分のせいでブヨンブヨンしてカッチカチにならないのです。
内部の水分を抜いて圧縮する工法が上記の「サンドドレーン工法」であって、出来上がった状態が『圧密状態』というわけです。
【D 破壊現象】
それでは、お待ちかねの「破壊現象」について説明していきます。
1)ボイリング
・掘削床面が砂質土で地下水位が近い場合、外部の水が回り込んでくる形で悪さをして、水と砂の混ざったやつがボコボコ沸騰(ボイル)するみたいに吹き上がる現象です。
・地下水位を下げるのが有効な対策です。
・山留めの根入れを深くする事も対策の一つです。(山留め周囲と内部との水位差がボイリングの原因なので)
・釜場工法は、水を呼び込んでしまうので逆効果です。
( ↑ ボイリング 出典:大商鋼材)
2)盤ぶくれ
・こちらも地下水位が原因なのですが、ボイリングとの違いは、掘削床面は粘性土であること。これの下に被圧帯水層がある場合、この帯水層から突き上げる水の圧力のせいで、掘削床がふくれ上がる現象です。
・「被圧帯水層」というのは、簡単に言うと「粘性土」に挟まれた水の層で、抜け道が無いために水圧が高くなっています。(隙あらば噴出してやろうと力をためて狙っています)
・ディープウェル等で水位を下げてやるのが効果的です。
・水が通っている地層(被圧耐水層)を遮断したいので、その層のさらに下にある水を通さない地層(難透水層)まで山留めを延長して深くすれば、盤ぶくれ対策になります。
( ↑ 盤ぶくれ 出典:ぶどうの木)
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?