#9 日本の伝統的な季節観を知る

今日は何の日?

 本日は時事ネタと言えばそうなのですが,日本の暦に関する雑学をお伝えしたいと思います。皆さん,本日(5月5日)は何の日だったでしょうか?多くの方は「こどもの日」と答えると思います。それはそれで大正解なのですが,今回お伝えしたいのは今日が「立夏」であるということです。立夏とは二十四節気のひとつで,今日から暦の上では夏がはじまるということです。そもそも暦とは何か,特に今回は伝統的な季節の概念について紹介したいと思います。

伝統的な季節とは?

 皆さんは四季がどのように決まっているかご存じでしょうか。これには様々な定義が存在し,例えば気象学の分野では3~5月が春,6~8月が夏,9~11月が秋,12~2月が冬とされています。この定義であれば皆さんも感覚的にわかりやすいかもしれませんが,伝統的には(具体的には江戸時代の頃までは),立春,立夏,立秋,立冬がそれぞれの季節の始まりを意味していました。立夏という言葉は馴染みがないかもしれませんが,立春であれば節分の次の日として比較的多くの方が認識しているかもしれません。
 伝統的な季節はどう決められているのでしょうか。そもそも,日本の伝統的な季節は4つではなく5つに分けられています。5つのうち4つはお馴染みの春夏秋冬ですが,もうひとつは「土用」と呼ばれる季節です。そう,あの「土用の丑の日」で有名な土用です。土用とは,春夏秋冬それぞれの間に設けられる「変わり目」を指す季節として,今でも農業においてはこの土用が意識され,土用の時期には土を掘り起こさない方が良いとされています。
 では,この5つの季節をどう区分していたのでしょうか。それは天文学的な考え方に基づいています。まず,1年は約360日であるということは世界的に,そして江戸時代の日本でも広く知られていました。それは天体の動きから,具体的には太陽の登る位置が日々ズレていき,約360日で元に戻るということから明らかになっていたのです。そしてこの360日を5つの季節で分割し,ひとつの季節を72日(360÷5=72)としました。つまり,春夏秋冬,そして土用が72日と決められたのです。さらに土用は春夏秋冬の間に4回存在するので,72日ある土用を4つに分割し,それぞれの土用の期間を18日(72÷4=18)としました。

伝統的な季節と人々の暮らし

 こうして,立春から72日間を春,その後18日間を土用,その次の日から立夏になって…というように,季節が決められていたのです。そしてこの伝統的な季節は今ではほとんど意識されることはありませんが,先に述べた土用と農業の関係のように,現在もその一部が伝統的な風習として残っています。例えば立春は節分の次の日ですが「節分」という言葉は「季節の変わり目」という意味で,立夏・立秋・立冬の前日も節分なのです。しかし,立春は伝統的な季節における一年の変わり目でもあるので,特に重視されて現在でも生活に根付いているのです。他の例を挙げると,代表的なものは先にも述べた「土用の丑の日」ではないでしょうか。ここで言う土用は夏と秋の境目の土用のことを言うのですが「丑の日」についてはもう少し説明を要します。
 丑の日の「丑」とは十二支の丑です。十二支というと現在では年を表すことが一般的ですが,昔は時を表す指標として,年に限らず月や日,時間も十二支で表していました(この辺の話も伝統的な生活と関連するので明日の話題にしたいと思います)。日を十二支で表す場合,子,丑,寅…と順番に繰り返すのですが,例えば1年の終わりが辰の日だった場合は次の年の始まりは巳の日となるので,現在の暦で同じ日が同じ十二支になるとは限りません。例えば,本日(2024年5月5日)は巳の日ですが,昨年の今日(2023年5月5日)は子の日でした。
 話を土用の丑の日に戻しましょう。以上を踏まえて,土用の丑の日とは「夏と秋の間の土用で十二支の丑にあたる日」を指すのだということになります。そして面白いのは,丑の日が2回になる年もあるということです。なぜかというと,土用は18日間あります。つまり十二支で言うと1.5周するということになります。ですから,仮に土用の最初の日が午の日だったとすると18日間で丑の日は1回だけですが,最初の日が酉の日だったとすると,18日間で丑の日が2回あるということになります。コンビニなどで丑の日を宣伝している際に「二の丑」という言葉が使われたりしますが,それは「18日間ある土用の2回目の丑の日」を示しているのです。
 このように,伝統的な季節は,日本が西洋化していく近代以降にはほとんど使われなくなってしまいましたが,節分や土用の丑の日のように現在でも文化として残っているものも多くあります。そしてこうした伝統的な季節を知ることで,昔の人が時間をどのように捉えていたかを把握することができ,それを日本の伝統文化として継承していくことは大事なことだと考えています。

おわりに

 今回は日本の伝統的な季節についてお話しました。この考え方は中国における陰陽五行思想という考え方がもとになっているのですが,その辺の深い内容については次回に述べたいと思います。今回の話を単なる昔のこととして捉えるのではなく,後世に残していくべき伝統だと考えていただけたら幸いです。

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