見出し画像

無知の知という槍

多分、1億個くらいコンプレックスが有ると自覚しているのですが、その中の一つに「野球を知らない」というものが有ります。学生時代からそうでしたが、まさか社会人になってからも、これほど多くの場面(※)で野球の知識が要求されることになるとは思っていませんでした。
特に野球に関する世界的な大会が開催されたり、不世出のスターが出現したりする最中に「あれ?レフトとライトってどっちがどっちデスカ?」みたいな奴(私)がいると、場を白けさせてしまうこと請け合いです。

※【やべえ、野球の話題だ!ピンチだ‼】の意識が一般レベルよりも強い為、実際より「多くの場面」であると感じている可能性も有ります。

さて、「知らない」をオープンにすることで、相手に対してアドバンテージを取る作戦。
世間ではこれが割と効果的とされているのか、体感的には、割と抵抗なく「知らない」と言える社会になってきているな、と感じます。
しかしそんな流れに逆行し、近年、私は安易に「知らない」と言えなくなりました。
知ったかぶりは、勿論、良いことではありませんが、素直に「知りません」と言うことも、私にはハードルが高いのです。

「説明してくれている相手」「対象Aに熱量を持った相手」に対して、率直に「知りませんが?」と言うことが、私には時に「ごくろーさん。知ったこっちゃねーけど」に聞こえてしまうのです。
下手をすると、「対象Aどころかオメー自体に興味ねーよ」みたいな、ドギツイ否定になっていやしまいか、と感じるのです。

気を遣っているのではなく、対人関係における距離感のトレーニング不足なのかも知れません。しかし基本的には「不快にさせるくらいならば、切り込むまい」のスタンスでいるので、なるべく刃物は出さないようにしたいのです。
ですので、直球で「知りませんけど?」が言える強さへの憧れは有ります。

①「なに熱くなっちゃってんの」というCOOLアピール
②「世の中で話題になっていることを知らない、ちょっと変人かも?な私」アピール
③「お前の話は聞きたくねーよ」という会話の遮断

「直球『知りませんけど?』発言」に期待される効果は色々有るかと思いすが、本音を言えばある種いずれもあやかりたいもんだと思っています。仕事のしがらみが無い状況であれば、特に③をやりたいシチュエーションは世の中の、まあ至る所に存在しています。
場合によっては「ちょっと興味持ちかけたけど、お前が話題に出したことで一生関わらなくて良いと思うようになったわ」ということすら有ります。


そして、「知らない」が言えないことと似た理由で、髪を切ってもらう際の「痒い所はございませんか?」にも私は恐れを抱きます。

美容師さん(以下、美)「痒い所はございませんか?」
客「ないです」

まあ、これが普通でしょうか。そもそも「痒い所が有っても言えない気性」という論点も有りますが、今回はひとまず頭は痒くないものとして考えます。
経験上、中にはこんな感じの方もいると思います。

美「痒い所はござ……」
客「ないです」

このメンタル。
喰い気味で会話を打ち切るこのメンタル。
「黙って髪切れ」そう言わんばかりのこのメンタル。
あやかりてぇ~。
あやかりたくとも、実際それが無理な私は、こうです。

美「痒い所はございませんか?」
私「…………んー…………いや、大丈夫ですね」

基本的に髪を洗ってもらっている状況ですから、仰向けに横たわって微動だにしていませんが、出来ることなら顎に手を当て、首を捻って、いかにも「思案しました感」を出したいところです。
私には、即答する事が、相手の問いを無下にしてはいまいか?そう思えてしまうのです(対人関係における距離感のトレーニング不足)。
もっと言うと「痒い所はございませんか?」に対するあまりに早い「無い!」の回答は、美容師さんの「こいつホントに考えて返事してんのかよ」の疑念を喚起するのでは?と不安になってしまうのです。
それに対して「…………んー…………」を挟む事が、私の心の安定剤です。「きちんと考えて答えてますよー」のアピールです。
「しっかり精査・思案し、なんなら一回持ち帰って社内で揉んだ結果、今現在、私の頭皮に痒い所が無いという結論に至りました」と、そう伝えたいのです。実際に痒い所が有るかどうかなんてことは二の次です。

「知らないと言えない」
「反射的に『痒い所なんてない!』と言えない」
「梅干し苦手なんすわーと言えない」
相手を傷つけないようにと言い訳しながら、結局は自己保身です。
せめて嘘は存在しない様に、頭はしっかり洗うべき、と思います。



冒頭の「野球を知らない話」ですが、厳密に言うと「野球をやったことが無い中学生レベル」の知識を有しているという感じです。当時、友達と野球のTVゲームで対戦し、42-0というスコアで敗れて以来、野球の情報等を極力シャットアウトして生きてきているからです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?