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潮が舞い子が舞い【漫画】

海の見える町の高校。
そこに通う高校生達の日常を描いた作品。
子どもたちが放課後交わす他愛も無い話や、悩み、恋愛感情、活き活きと湧き上がる一喜一憂が、1話10ページ程度の短い中で、時にユーモアを交えつつ、詩のように綴られている。画面は全体に白を基調とし、風景のみのコマ、登場人物がただ歩くだけのコマも多い。
大きな動きや派手さは全く無い作品で(暴れん坊なのはバーグマンと中畔くらい)、ただ二人の生徒が会話をしているのみ、というだけの話も多く有る。
全10巻・110話を通して、50人以上の登場人物の心の機微を丁寧に静かに、淡々と紡いでいる。

作り方の特徴としては、「憑依型マンガ」と言えるかも知れない。
作者が一人一人のキャラクターに憑依しているように「このキャラクターがこの場で発するとしたらこれしかない」というセリフがピンポイントで当てられている。
同様に、各個人の設定もかなり練られていることが窺える。意図的に劇中では描かれていない部分も有るので、読み手の想像力で補いながら、読者なりの生徒像を考察する必要も有る。
それにより、また「推し」の登場人物が生まれることもに繋がっている。

作中で、生徒たちの担任である那智先生は教え子たちのまばゆさについて言及する。
自分たちはもう決定的に子どもではないのだな、という当たり前だが鮮烈な事実を、「大人」の読者は、作中の大人たちの目を通して噛み締めることになる。「潮が舞い」「子が舞い」、しかし、大人はそれを遠くから見つめる立場でしかない。「あの子たち」と「自分たち」はもう違う世界にいる、と、否応なく理解せざるを得ない。
作品のラストは、制服のまま、足首まで水に浸かって海で戯れる女子生徒の画で終わる。
彼女たちの眩しさや尊さが宝石のようにページに仕舞われていき、大人は一抹の寂しさとともに本を閉じる。

いつまでも続きが読みたくなる、「終わって欲しくない」と切に思う作品だったが、10巻で完結した。
読者は事情を知る由もないが、ただ、作品の内容の如く、美しい余韻を残して幕を引いたというその事実のみで、敬意を表するに値すると思う。

この漫画に出会えて良かったなと、照れながらも素直に言える漫画。



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