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再録「あのときアレは高かった」〜ラジカセの巻

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

音を録る、ということが、なぜあんなに楽しかったのだろうか。

映画『2001年宇宙の旅』の冒頭を飾る猿たちの話ではないが、その時代から四半世紀をとうに経た今、改めて、ああ人類は進歩したなと、iPhoneに最新の楽曲をダウンロードしながら、いまさらながらに思ってみたりする。

あの、「ベストテン番組のある歌手のシーンにドアホンの音が入っていた間抜けな瞬間」や「アニメ版『天才バカボン』の最終回を録音しようとして、黙った観ていたのに、おかんの”ごはんよ〜”という声で台無しになった思い出」とか、(ご同輩の方には周知な思い出だが)あれはいったい何だったんだろうと苦笑しながら思う。

音楽のことを「音を楽しむ」と書くが、まさに音を心底楽しんでいた子供時代だったのだ。

そんなわれわれの「音楽」に大きく貢献したのが、ラジオカセットレコーダー、通称「ラジカセ」である。

1968年に最初のモデルが登場した後、70年代から各社が次々と発売してきた。ラジオが聴けるが、録音はマイク端子のない、テレビの前に置いて、「おかあさん、録音するから、ちょっと黙ってて!」という、例のアレである。

「ナショナルMAC」の場合、標準価格は3万9800円(RQ-552、75年発売)。現在の価格に直すと約7万2000円である。

やはり、安いものではない。お年玉をためてというよりも、何となく親がかりの大きな買い物だったような記憶がある。

このMACシリーズは当時人気があった。その後、FMでマイクからの電波を飛ばせるタイプなども登場し、近所の子供たちを集めて、わざわざマイクを持って寒空の下に順番に家の外に出て「DJごっこ」(皿を回すやつではなくラジオのディスクジョッキー)などをやったりもした。ヒップホップで大男が肩にラジカセを乗せてユラユラと練り歩くようになる20年ぐらい前の話である。


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