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サボテンも枯らす部屋


 八王子に引っ越してきてからもうすぐ8年が経とうとしている。この街での生活を振り返ってみよう、この街での無様な「生きざま」を思い起こしてみよう、そう思ってから、ずいぶんと時間がたってしまった。

 徐々に明らかにしようと思うが、東京都心の四谷三丁目から逃げるようにこの街に流れてきた。最初はいっさいこの街に興味はなかった。ちょっとした郊外なら、いや、四谷三丁目でなけりゃ、どこでもよかった。それどころか、都心からの遠さといい、気温の寒さといい、なんて街に越してきたのだろうかと愕然としたものだった。

 マンションの一階に住んだ。家賃を安くあげようという魂胆もあったけれど、たとえ知らない土地でも、地に足がついていないのは嫌だ、そんなくだらないことにこだわった結果だった。無駄に広いだけのオンボロマンション。トイレの便器が最近あまりみないタイプのそれで、詳しく調べたわけではないが、昭和50年代に建てられた実家のものよりも古さを感じさせるデザインなので、おそらくそれ以前のものだと思われた。便座の冷え方が半端なく、お尻のひゃっこさに耐えられず便座カバーを探し回ったが、どこにも合うものがなく、そのうちにひゃっこさに己の尻が慣れてしまった、そんな代物であった。

 ひゃっこさといえば、もうひとつある。八王子の駅までは家から徒歩で15分以上かかる。めんどうなので、都心に向かう際に駅裏の自転車置き場を利用した。寒さもピークを迎えた2月。都心から夜中に着いた八王子の駅で、往路で身につけていた手袋(そこそこいい値段したものだった)をなくしてしまったことに気づいた。

 ため息まじりの白い吐息を吐きながら自転車置き場に行き、凍える手に「痛み」を感じながら自転車の鍵を開けた。走り出す。ハンドルを持つ手が冷たくてたまらない。金属からくる芯に迫る冷たさと大気の寒風で、洒落にならない冷たさだ。あまりの寒さに誰もいない夜中の道でわたしは大声をあげた。この時間の八王子の気温はマイナス5度。なんてとこに来たんだ、俺は。ほんとうに涙が一粒、こぼれた。

 なんだこの街は、最低だな。だが、その最低の街にしばらく住んでみようと思った。どうでもいいこの街では、語ることなんて自分のことしかない。いっそ自家中毒でもなんでもいいので、一回この街にまみれて、堕ちるところまで堕ちてみようと思った。

 以上が、これから少しずつ書き始めていこうとしているコラムの能書きだ。週刊と名乗ってはいるが、どんなタイミングで書き続けられるか予想がつかない。なにを書こうか、あるいはどうやってクオリティをあげていくか。そんなことを考えているとまったく筆が進まない。だから、思いつくままに綴っていくつもりだ。現在、過去、未来。過去も、昨日のことや40年前のこと。いろんなことがバラバラに入り乱れていくのだと思う。要するに、そういう人生だ。

 俺はこれでも原稿でめしを食ってる。いつまでタダでこんなことを書き散らすのかもわからないし、どこまで己の恥を開陳するかわからない。とりあえずは思いつくままにこの「note」とやらにアップしていく。

 この前、ホームセンターで手に入れた安物のサボテンが前のめりに倒れていた。水のやりすぎだ。思い余った。

 サボテンも枯らす部屋。けっこうだよ。なぜか八王子。プスプスと音をたてながら始めていこうと思う。

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