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再録「あのときアレは高かった」〜”カッコいい”自転車、ロードマンの巻

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子供には「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

補助輪付きの幼児用自転車から補助輪を取り去る。父親の支える手から飛び放たれ、僕らはやっと「一人前の子供」になった。そして、思春期を迎える頃、そこにはさらなる飛躍が用意されていた。それは、「カッコいい」自転車、ロードマン(ブリヂストンサイクル)である。

ロードマンは1974年の発売で、定価は4万9800円。消費者物価指数の比較から現代の価格に直すと約10万円である。現在の100万円近くもする高級ロードバイクに比べるとかわいい数字だが、ロードマンはあくまでも子供用である(厳密には、あらゆる世代を対象としたロードバイクの入門モデルだが、少年用スポーツサイクルという市場を意識して開発された)。

モノ余りの昨今に比べ、相対的に当時の自転車は高かった。74年の自転車の価格の相場観は、2万円台の後半から3万円のあたり。そうしたなかでも、件のロードマンは、とてもじゃないがおいそれと買ってくれとせがめる金額ではなかった。

そんなわけで、登下校の道先で自転車屋のショーウインドーに飾られたこのマシーンに垂涎の眼差しを向けていた小中学生も多かった。

私は当時、中学生だったが、実際のところ、ロードマンを持っているのは学年で数人だったような印象がある。

日本初のドロップハンドルに込められたオトナな気分。少年マンガ誌の広告の中で輝いていた憧れの世界。

いかに「むけていくか」。

全国の中2たちを痛く悩ませた屈指の名器の歴史である。


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