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「考察する」ということ -症例レポート査読を通しての気付き-

リハビリ職、まぁ看護も勿論ですが(医師と薬剤師とかは不明)、カリキュラム上で臨床実習及びレポートがあります。
普通に数多の資格でありますな、それはそうか。

その中で、一症例に介入してレポートとして仕上げる過程がありまして、その査読はバイザーがするわけです。
職場によると思いますが、経験年数が若くてもケースバイザーはやったりするわけですね、スーパーバイザーは5年以上の経験年数を求められます。

昨年と今年と、査読して学生を指導する立場など経験できましたので、今回はその中での気付き等になります。


1.考察が苦手な学生たち

主語がデカいですが、学生は考察が本当に苦手です。
というか、よくわかってないです。

かくいう自分も、アホ程ブログによるアウトプットをしていて成績優秀賞も取るなどしていましたが、入職後にボコボコにされました。
未だに得意かというと微妙です、まだサマリーは突っ込まれたりします。

一度、音声障害のケースで治療手技等の共有を目的に症例報告を部内でした際にはほぼ突っ込まれなかったのですが(一年目)、別件で失語症例のまとめをした際には反復横跳びが如く突き返されまくりました。

上司には「発声関連はしっかり出来るのに、何故失語だと出来ないの?」と言われましたが、そんなこと言われてもと思っていた次第です。

経験値が違うと言えばそれまでですが、その経験値の背景を考えることがひとつ良い学びになるかと思った次第です。

2.ボイストレーナーは考察しているか

自分自身、お世話になった畑は一部ボイトレ界隈に違いは無いです。
未だに御縁がある先生、一方通行で見ている先生、消息不明で元気か気になる先生などなど…
もちろん、レッスンに受講してくださった生徒様各位もですね、極たまにレッスン受けたことありますと言われてほぼ覚えていないので焦ります。
一応、予約で貰ったメールは保存しているんですよ、戦果のように。

ボイトレ界隈、流石にトレーニーでは無くトレーナーに目を向けますが、ボイストレーナーは常に考察をしていると思います。

考察っていうのは、要は良くなる方法の仮説を立てる事、と捉えています。

当たり前にやりますよね、そりゃそれが仕事ですので。
ただ、存外自然に出来ない人が多いものなのです、意外と。

3.考察に必要なこと

当院、というかまぁ一般論くらい広くかと思いますが、考察に至るプロセスは概ね三段階です。

①結果:事象それ自体や検査結果
②分析:
事象の背景因子
③考察:
分析を元にした解決の方法仮説

この3点です。

ボイトレで言えば、
①ミックスボイスが出ない(定義の曖昧さはさて置き)
②そもそもとして土台の地声・裏声が弱いetc
③音高を上げるためにまずは分厚さを抜いて輪状甲状筋の伸展を目指すべきでは無いか、そのためにファルセットによるスケールトレーニングを実施する。
みたいな感じです。
方法論としての整合性は目を瞑ってください。

言語臨床で言えば
①SLTAでの点数がどうこう
②呼称で失点により喚語困難あり、表出の誤りで錯語あり(種類はさておき)etc
③読むより聞く方がモダリティとして保たれており、喚語能力の低下がコミュニケーションの阻害因子なので呼称訓練を実施(単語の属性検討は割愛)
みたいな感じです。
厳密には、小嶋先生あたりの認知神経心理学的モデルを運用した刺激促通法が主流かと思いますが(全体法は無知です)。

結果と分析までは客観的な事実として保たれているべきで、考察は主観的な解釈を大いに含みますね。

4.余談:ボイトレにおける一連のプロセス運用の問題点

上記のようなプロセスを実施するにあたって、リハビリシーンも他所のことを強気に言えるほどでは無いのですが(特に言語聴覚領域は…)、結果と分析の精度を確固たるものにするエビデンスというものさしが欠けています。

各個人で、結果の解釈~分析にかけて既に主観が入り混じることが多いため、地盤の弱い分野だなと思います。
音声学や言語学、解剖学など諸学問によって分析の精度は上げられますが、結果に関する定量的な評価は難しい所かなと思います。
まぁSTも似た所ではありますので、まぁですね。

エビデンスが無い・定量的で無いというのは脆弱性を孕みはします。
ただ、質的評価という点でボイストレーナーは卓越しているかなと考えます。
要は定量的で無いものです。
自分がベテランSTより音声・発声臨床で勝っているのはここだと思います、結局。

定量的な評価・分析・考察のプロセスが無いことは再現性の低さに繋がるかなと考えます。
再現性をどのように定義するかと言いますか、どこまで求めるのかで話は変わりそうですが、そこを担保しようとするのが民間資格によるものかとは予想します。

ここは教育的側面が必須になると思います、取り組んでいる先生も今や多いですけどね。
ただ、その質的な部分を担保できても根本の定量的観点は?という課題は残り続けるわけです。

レッスンのレポートによる検討が成されていないことが大いに問題かなと、リハビリの視点からは感じるところがあるわけです。
またそれは別件で気が乗ったら書きます。

兎にも角にも、音声自体のメカニズムに謎が多いにしても、ボイトレという分野はエビデンスの構築という点で現場レベルではまだまだ発展途上未満くらい、とは思うわけです。
これは講師個々人の問題では決してなく、業界的な在り方でしたりの方向かなと考えてます。
あと、臨床現場もですけど、エビデンスを築いていくのは「自己研鑽」で報酬が無いんですよね、これは問題です。
経済的報酬や名声が絡むのも面倒なことだと思いますが、解決の一助になるような働きかけをしたいです。

5.考察をするためには

閑話休題、考察をしっかりと取り組むには何が必要か。

結論、やはり機能的な問題の解決を考えることに尽きます。

よく見るレポートの文言として「~が困難であるので、改善を図って訓練を実施してく」とあるわけです。

その困難さの機能的な分析が出来ているのであれば、客観性から一歩踏み込んだ主観的な解釈を述べた上で、その解釈による具体的な問題点を解決する手法としてどのような手技を提供することが有効と考えるか、が考察なわけです。

仮説と検証です、そしてまた検証結果分析して考察するのです。

6.何故分野が変わると出来なかったのか

どの本で読んだか忘れたんですが、分野が変わると思考体系を転用は出来ない、というのがあるようです。

それは自分にとっては発声と高次脳・失語における関係性のわけでした。
他方、ApexというFPSを何だかんだ何年かやっているのですが、真面目に頑張るかとなって報告する頻度が増えてから仕事の報連相も上手いこと出来るようになりました。

重要な点として、やはりその思考体系を持つにあたっての語彙によるところがあるのかな、と思います。
大きなフレームワークは変わらないはずでも、事象の知識とそのラベリングが蓄積されていないと意味が無いわけです。

「(アーマー)割った!(回復)巻いてる!」と「家族対応が入ったので〇〇さんの介入お願いできませんか?」は同じわけです。
上記はどちらも自分が対応したことで割いたリソースの補填を他者にお願いしているわけで、それは端的に素早く実施するに越したことがないのと、全体像の共有が重要という共通項があるわけですね。

失語症例を書いている際の自覚的なところは、「どこが分析でどこが考察かわからない…」でした。
分析も考えては書くんですよ、結果を元に見られたものが何かって所なので。
ただ、それは解決する手段を示すわけでは無く、あくまでも結果から推測される範囲の事実なだけなわけです。

自分が頑張って考えて書いたら考察、というわけでは無いです。
まぁ、レポートとかそういうものではですね。

7.直近の例

ここで考察を展開してましたので、引用しつつ一例を。

咳き込み・咳嗽は本来的には咽頭・喉頭の異物を気管外へ排出することを目的とする防御的な反応です。
誤嚥防止弁として、我々は一般的に喉頭蓋・仮声帯・声帯三層構造をしており、その中で取り分け声帯が音声コミュニケーションのツールとして発達していった、のような背景だったと思います。
基本的に、内喉頭へ接触した瞬間に咳嗽反射というむせ込みが起こるメカニズムでして、まぁ随意的にも出来るわけですね。
その際、三層弁の下の呼気圧を高めて一気に放出することで異物を呼気で出そうとするわけです。
それにあたって、多かれ少なかれいきみ・怒責が生じるわけですね。
ご存じの通り、いきむ際には声帯等が閉鎖して、呼気流入をストップして胸郭の可動域を制限するような状況が出来るわけです、呼吸関連は浅いので深くは突っ込めませんが。
それにあたって、結果的に仮声帯の閉鎖方向への運動は実現できるわけで、そこからデスボイスへ行こう!という主義です。
出来る人はこれだけで一瞬で出来ます。
他方、出来ない人は以下の問題点が考えられます。
・呼気圧が低い
・咳嗽に際して声帯等の開大が早い=咳嗽が浅い
・ちゃんと閉鎖したままやって結果的に仮声帯発声止まり(二重音声)

大体この辺な気はします、多分。

2-①より

デスボイスの発声導入手技に関する項目ですね。
引くほど読みにくいですし回りくどいです。

これを解体し直すと…

①結果:
ここでは仮想的なモデルは無いので割愛します。
こう言いますと、如何に世の中のtipは個別性・具体性を欠いているか、曖昧さを大いに含んでいるかわかりますね。

②分析:
ここも厳密には①同様です。
①、②は個別ケースが無いと語れない部分です。

③考察:
まとめようと思いましたが、汚過ぎて無理でした。
以下に書き直します。

一般的に、仮声帯の接触は嚥下及び咳嗽時に確認される運動である。咳嗽はヒト喉頭の仮声帯及び声帯閉鎖・開大と同時に急激な声門下圧の上昇により行われるもので、気道(上喉頭・声門上下)から異物を排出する動きとなる。誤嚥防御反応として、迷走神経を介して咳嗽反射が行われるが、随意的に行うことも可能であり、これを利用した発声導入方法となっている。
--------ここまで事実--------
デスボイスにおける仮声帯振動はカルグラ等の仮声帯発声とは違い、仮声帯のダイナミックな振動が喉頭内視鏡による所見で確認される。また、随意咳嗽時に瞬間的に生じる音声と聴覚印象上の共通項が多い。一方で、カルグラ等に比し非周期性が強く、ピッチを感じにくいという特徴を持つ。ピッチを感じる仮声帯振動は安定した振動体及び振動周期を要し、それに伴って仮声帯は一定の距離感で声帯に類似した振動を呈することで、二重音声が実現される。
--------ここまで分析的な位置づけ--------
デスボイスにおける非周期的振動を実現するためには、カルグラ等に比し仮声帯における筋あるいは組織的な緊張感の低さが実現される必要があると考える。随意咳嗽はそのような内喉頭の状態を作り得ていると聴覚印象上から考えられるため、デスボイスの発声導入手技として有効な手段と言える。この緩慢さを伴う状態を維持しながら発声持続することで、デスボイスとして認知される音声パターンが実現される。しかし、随意咳嗽にも個人差が大きいため、カルグラ等に近い内喉頭の状態で当該手技を実施することは二重音声に至ると共に、不必要に呼気流量を伴うことで声門下圧が高まり、結果として声帯粘膜への負荷量が高まることが予想される。また、随意咳嗽はその特性上、呼気流量を多く要するものであるため、発声持続に耐えうる呼吸機能が必要であると考えられる。
--------大体の考察--------

見やすいように引用扱いで。

はい、こんなもんやろうという感じです。
字数およそ700文字、読まないですね。

これだけのことも、実際は結果と分析を抜きにしたボリュームです。
ネットの情報とは斯くして曖昧なものであります。

例えばですが、上記では
・随意咳嗽時に瞬間的に生じる音声と聴覚印象上の共通項が多い
・カルグラ等に比し非周期性が強く、ピッチを感じにくいという特徴を持つ

この辺りは引っ張ってこれるソースがあるわけでなく、肌感です。
探せばあるでしょうけど、こういった所はちゃんと確認しないとエビデンスとしては非常に弱い、というか根拠になり得ないかなぁと思います。

8.おわり

ふと思い立って綴った所存でした。

前にも書いてますが、未だに査読は突っ込まれますし、上司と話していて曖昧さを突っ込まれることも少なくないです。
ただ、そんな自分からしても突っ込み所が多いケースというのは少なくないです、各所で。

こういうことをしているからなんちゃってアカデミックヤクザに見られるのかとも思いますが、情報に関してのリテラシーはより一層高めないといけないだろうと感じているわけです。
意地の悪いことをしたいわけではなく、曖昧さを排除したいという点を了解いただきたいです。

まぁ曖昧に落とし込んでいる点を突っ込まれると痛いんですよね、被害者でもあるのでわかります(〇〇のような、等も突っ込まれまくるので)。
ただ、曖昧さの排除はより正確な相互理解と、自身の考えを明瞭にすることには繋がるなと感じます。

考察というテーマで書いてきましたが、反れましたね。

乱文となりましたが、何かの一助となればアレですね(曖昧さ++)。

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